73 子どもをスキーの達人にする極秘作戦(増補版2013年)

1 スキーヤーの数は、もうすっかり減ってしまいましたね?

業界の記録では、スキー人口は平成5年(1993)に1800万人、平成24年(2012)に600万人だそうです。ピークから20年たって、3分の1になりました。

2 おまけに、スキー客が高齢化しているそうですが?

スキーをものにした人たちは、やめずに続けています。一方で、若い世代の新規参入がごく少ないので、スキーヤーの平均年齢は毎年上がる計算です。

3 それなら今からスキーに参加した若者は、モテモテですよね?

あまり知られませんが、実はそうなのです。数少ない新人として目立ち、歓迎される状態。教えてくれる先生が多くて、ちょっぴりチヤホヤされそうです。そして何年かたって世代交代していくと、今度は数少ないリーダー役になって目立っていくでしょう。中堅スキーヤーとして希少価値が出るでしょう。

4 それって、おいしい話ではありませんか?

ビリヤードなどでも当たり前の道理ですが、「あの人はうまいなあ、カッコいいなあ」と感じる、そんなテクニシャンはブームの前から続けています。前回のブームにも顔を出して、ブームが下火になってそろそろ時代遅れかなと皆が感じていた頃も、切らさずにプレーしていたのです。

5 しかし人は、そこまで計画的には行動できない気もしますが?

ブームを聞きつけて参加したのでは、カッコよくキメる自分をそのブームで実現できません。時間的に間に合わず、初級者の役目で終わってしまいます。新参の初級者たちからあこがれの目で見られる日は、次のブームまでおあずけに。派手系レジャースポーツの宿命です。ということは、ブームでない谷間の時期から、ひそかに腕を磨いておくのが要領のいい参入といえるでしょう。

6 スキーブームなんて、何百年たってもあり得ないという声がありますが?

前回の入門者たちの、落胆の大きさを物語る声がそれです。一昔前の難しいずんどうスキー板にやられて去った無念な心境が、そう言わせるのでしょう。急斜面のトラウマが残って、またブームが来たらいやだなあ、怖いなあ、関係したくないなあという気持ちが残っています。

7 そこに100年ぶりの革命が起きて、複雑な事情になったわけですか?

スキー板の設計が大きく変わって、初級者が降りられない斜面はすっかり減りました。超上級斜面以外は、初級者でも何とか降りられる時代です。こうして生じた、新しい実態と古い体験のギャップについては、本編で詳しく説明しました。

8 カービングスキーの性能が部外者に伝わらない問題が、まだ続いているのですね?

カービングスキーという名称も略され、単にスキーと呼ぶよう戻っています。カービングでない板は、すっかり忘却のかなたに消えたからです。しかし旧式スキーのみ知る人に対して、説明を省くわけにはいきません。最新のロッカースキーを説明するにも、先にカービングスキーの説明が必要です。

9 説明する前に、参入者がいよいよゼロになってしまいそうですが?

それが、少し持ち直した感触があります。例えば、ある読者から「革命の現場を知りました」という報告が届きました。壁越えの手前で不完全燃焼のまま疎遠になっていたスキーに、突然戻って壁越えできて、スイスイ滑れるようになったという体験談です。

10 その人は、一度やめたスキーになぜ突然戻ったのですか?

復帰のきっかけは、子どもがスキーに初参加したことだそうで。それを機に、父親も再びチャレンジしたわけです。そして最新のスキー板を使って、若い頃は無理だった斜面が、今は楽にカッコよく滑れるようになった成功体験がつづられていました。

11 子どもが今どき、なぜスキーを始めたのですかね?

小学校の授業です。北国の冬の体育はスキーがほとんどです。そのケースでは、子どものスキー授業が始まる通知を受け、少し練習させておこうとスキー場のスクールへ。そのついでに、自分も少しだけ久しぶりに滑ってみようとネットで下調べして・・・。そして、あの頃とはスキー板が全く違っている耳寄り情報をキャッチした流れです。

12 やはり、主役はカービングスキーの効果ですか?

そこですが、新たな焦点として過去のキャリアが浮かび上がってきました。体に残っていた初級技術を新しい道具にうまく乗せ直して、晴れて上級スキー技術に伸ばせたのが、真のあらすじではないかと。そのハッピーエンドの発端が、我が子のスキー授業だっただけで。

13 でも南の県にはスキー授業はないから、そういう機会からしてありませんが?

実は関西より西でも、スキー場ごとに児童教室が用意され、こっそり一部の人気があるのです。何かをきっかけにスキー教室に子どもを通わせ、ついでに両親も初めて試してみるケースが意外にあります。スキーってどんな世界だろうかと、子を預ける親として気になるわけで。

14 未経験者がスキーを意識する何かのきっかけとは、何がきっかけなのですか?

たまたま大型スポーツ店でチラシを見たり、冬季オリンピックのニュースで、児童スキーヤーが映ったとか。他県から転校してきた生徒が、スキーがペラペラだった話なども。また、課外授業や子ども会で参加したとか。経験者でも、昔よく行ってそこそこ滑れた良い思い出を持ちながら、何となく離れていた場合もあるでしょう。スキーへの恨みがなければ、再び思い立つ可能性も十分。

15 二代かけて、スキー習得のリベンジですか?

親の世代は覚えがあるはず。かつてスキーを試した頃。転倒ばかりの自分とは違う、上手な友人がいたことを。当時たずねると、高校の時に何日か行ったという友人の回答。3歳から始めたわけでもなくて。それで、こんなに差が開くのか・・・。それなら、今中学の我が子が始めたら楽勝かも、という簡単な理屈です。

16 子どもに何か一芸をという、穴場になりますね?

昔の子ども向けのお稽古ごとは、ピアノ、習字、そろばん、お茶などでした。どれも文化系ですが、スキーを習いごととするのは名案かも。スキーは、できる人とできない人が分かれた特殊技能です。初心者の飛び入りでは、滑るどころか立って動くだけでも困難という特性があります。

17 子どもにスキーを始めさせるとすれば、一番気をつけることは何ですか?

ピアノ同様、指導者につけることかも。経験則では、スキー場にいる指導者が安心です。場内のどこに何があるかは日々変化して、常駐する関係者のみ把握しているから。大人ならゲレンデ内のどこでも安全でも、子どもには怪しかったり危険な緩斜面もけっこうあるという、程度の問題が意外に重要です。

18 でも正直言って、ちゃんと習ってやり直したいのは、実は親の方ですよね?

そこで、旧式スキーで苦労して蓄積した潜在能力が、新たな焦点になったのです。20年たっても消えずに潜伏しているとわかりました。壁の手前でやめた人たちは、高校の時に何日か行ったパターンに似ているわけです。今からカービングスキーを使えば、あたかも一輪車で練習した後で自転車を試すような、案外イージーな感覚ではないかと。

19 リベンジを目指す大人にとって、怪しかったり危険な障害物は何かありませんか?

昔のずんどうスキーが手元にあるからと、ゲレンデへ持って行っても無駄です。復帰の失敗は確実。派手な転倒がめっきり減ったゲレンデで、一人だけ派手にコケて危ないだけ。新型のカービングスキーが大前提です。20年前にスキーをかじった少しのキャリアを、トップ幅12センチのカービングスキーで増幅するのが近道です。今の新製品なら、ロッカースキーと呼ぶタイプのカービングスキーになりますが。

20 子どもといっしょに始めたら、あっという間に負けませんかね?

21世紀のスキーに親子で参加すると、しばらくは親の方ができるでしょう。リベンジ組は昔の蓄積が功を奏して、何年かは頼られる側になるでしょう。