67 なんちゃってカービングターンを解決する 1(増補版2010年)

1 今のスキー板は簡単になったとはいえ、ベテランには難しい場合があると聞きましたが?

一部のスキーヤーにシェーレンの癖が残っていて、これは微妙な課題のひとつかも知れません。

2 左右のスキー板が、平行にならないわけですね?

スキーの基本スタンスは平行置きですが、ハの字に開いて置くスタンスが、2通りあります。後が開いたのがシュテム(常時開くのはプルーク)で、前が開いたのがシェーレン(=シザース)です。リアルなカービングターンは平行(パラレル)を保ちますが、シェーレンを保つのが、なんちゃってカービングターンです。この癖が抜けないケースを考えてみます。

3 先開きのシェーレンのスタンスで滑ったら、何か不都合があるのですか?

そこが微妙なのです。まずパラレルでないということは、内スキーが仕事をしていません。あるいは仕事量が少なすぎて、内スキーが補助役か添え物でしかないのです。外スキーとは違うことをやって、複雑化しています。両足で両スキー板に乗って、左右をシンクロさせるのが簡単になったのが、カービングスキーでした。簡単になった理由は、サイドカット半径が小さく作られているからです。

4 だとすれば、やっぱり今日的な不合理がはっきりとあるわけですね?

そこはやっぱり微妙で、リアルなカービングターンであっても、なんちゃってカービングターンであっても、スキーは成り立ちます。何しろ、昔は皆そのスタンスだったわけで。

5 でも今となっては、けっこう目についてカッコ悪いですが?

カービングスキーが普及を始めた頃に、スキーヤーはしだいに乗り替えていき、カービングターンにトライして、次々とモノにしました。ただし、直ちにカービングターンができた人はわずかで、ベテランの多くはシェーレンのなんちゃってカービングターンでお試し期間を過ごして、それからパラレルのカービングターンへと移ったのです。

6 移行にもたついたのは、カービングターンが難しかったからですか?

そうではなく、中上級者の複雑な事情がありました。以前のスキーは外足一本に乗って、内足を軽く持ち上げて滑りました。内スキーを、雪に作用させないようにしたのです。ネットで過去のスキー番組映像を見ると、かすかに上げ下げする内スキーの動かし方が、はっきりと映っています。

7 「外足に乗れ、内足に乗るな」が、当時のスキーの基本でしたよね?

左右の足への荷重割合が9対1の基本を体にしみ込ませて、がっちりと固めて完成させた人ほど、新設計の板に乗り替えてカービングターンをやる時に、往年の調子で外足一本に乗ってしまい、内足を踏み換えてしまいます。内スキーを雪上に降ろしているのだけれど、軽く当てているだけ。

8 そうして板を持ち上げぎみなのはわかりますが、なぜシェーレンに開いてしまうのですか?

条件反射です。以前の旧式ずんどうスキーは、パラレルで構えると、雪にはじかれたはずみで先端部が交差する転倒がよく起きました。だから上級者たちは、左右の板の先端部を離して、常にシェーレンに構える癖をつけることで、これを防いだわけです。

9 でもそういう人たちも、結局はパラレルスタンスにさっさと移行していますが?

だからこれは、一種のデッドスポットなのです。新しい道具で旧態のややこしいことを続けている、取り残されたゾーン。そこで、そのゾーンにいる人を救済できないかと考えています。

10 スクールで教習を受ければ、簡単に直らないのですか?

現実には難しい面があります。スキー歴の長い人に限って、なんちゃってカービングターンから出られないわけですから。(1)年齢が高め。(2)年季が入りぎみ。(3)ベテラン意識を持ちぎみ。

11 それこそ、一番教えにくそうな客ですよね?

一般初級者や子どもならば、自己流の型をまだ持っていないから、リアルなカービングターンの習得はずっと簡単になります。王道をつたっていくことに、抵抗はありません。

12 簡単にいかず、抵抗を持つベテランは、教習を受けるのも嫌いなのでしょうね?

そうとも限らないようです。上級者の高額な特別講習に、何度も参加している人も見ました。だから、「スキーの技術なんてどうでもいいのさ」とは、本人は考えていません。むしろ、熱心なところがあります。

13 団体の教習に加わって、支障にはならないのでしょうか?

全体の支障にはなりませんが、試技が癖とぶつかって、当然本人の進歩はありません。本人も「進歩しないなあ」と言っています。内スキーのアウトエッジ(小指側)の使用を、常に回避する習慣がついているから、教習の目的と常にすれ違っているのです。

14 カービングしないでずらす滑りでも、そのシェーレン癖が悪影響を及ぼすのですか?

現在の教習は、ずらす滑りでも両足同時操作を目標にします。そうする理由は、カービングスキーの特性に合わせているからです。第一、カービングターンと異なる操作体系を別に用意したのでは、今さら非効率すぎます。切りながら、ずらすという、中間的なターンだってあるわけで。そのため小回りもコブも含め、レール・ターンと共通した要領で行い、指導もそれらが分断しないよう工夫されています。その結果、一人の到達点が上がったわけです。ここで取り残されると、到達点は下がって、現代ツールの恩恵から外れるという。

15 教習を受けた時に、「パラレルになっていない」と教官から指摘されないのですかね?

何度も受講した該当者に確かめたことがありますが、そのような指摘は自分も他人も、いつもないそうです。おそらく直すのに時間がかかって、みんなのために用意した教習プログラムが進まないので、教える側もそこは認めているのだと思います。

16 それって、放っておかれているのだと思いますが?

だから、シェーレンの癖に何となく気づいている本人に、こっそりヒントを出せないかと考えたのです。