66 スキー場のレストランはなぜ高い(増補版2010年)

1 スキー場で1000円のクッキーが、高速道路のSAでは800円ですが?

安い店で買うのが常に理想とはいえないのが、スキー場の経済学です。その差額の200円は、店が丸もうけするわけではありません。一部は山道を運び上げる費用に化け、一部は売店に入りますが、大半はスキー場の取り分になります。そしてリフトの電気代、各従業員の給与や光熱費、さらには雪かき、コース整備と圧雪、駐車場の拡張工事などにも当てられます。

2 高速道路内の店で買えば、スキー場には入らないわけですか?

高速道路関係の企業は、スキー場と全く関係がありません。なのでスキー場のサービス向上やコース改良を期待するなら、スキー場内で買う意味が出てくるのです。かつて同じスキー場に通って、一番大きいケーキの詰め合わせを買い続けていると、エリア内のトイレが温水洗浄に変わったことがあります。もちろん偶然ですが、管轄が異なる離れたレストランは古いままだったので、この原理を想像しました。

3 そもそもスキー場の物価は、なぜあんなに高いのですか?

スキー場全体で、経費を回収する名目を分散しているからです。収入源として大きいのは、まずリフト券、次にレストラン、駐車場料金、売店、自動販売機などです。しかし個別にコスト積み上げをするのではなく、再配分しているわけです。

4 リフト券は全員が買うから、そこに全部を上乗せしてはまずいのですか?

リフト券の価格は他のスキー場と比較され、スキー場を選ぶ目安になるので、高くて目立つと客が来ません。レストランのメニュー価格が都会の2倍なのは、店自体の暖房や雪おろしだけでなく、店以外の場内整備の分まで入っているからです。それでも、ほとんどはトータルで赤字ですが。

5 あんまり高すぎると、いやな感じがしますが?

レストランは値段だけでなく味と量でも目立つので、腕のみせどころです。味気ないレストランをかかえたスキー場は、ネットでブラックリスト化されているぐらいです。また缶ジュースのように、付加価値でカモフラージュできない商品が都会の2倍だと違和感が強すぎて、全く売れません。缶が小さい200ccしかないと、悪評も流布します。自販機を撤去して、レストラン内の高い飲料メニューに引き込む作戦も、失敗しています。

6 さじ加減が難しいのですね?

東京ディズニーランドで、飲食物の持ち込みを禁止して、手荷物チェックした頃がありますが、これでは場内レストランに市場原理がなくなるし、客には強引に囲い込まれた不快感が残ります。訓練期間を要するアウトドアレジャーに貧乏旅行の入る余地がないと、将来の上客が育ちません。スキー場の飲料の解決として、手間が少ない大型紙コップ式自販機で薄利多売に変えるなど、客の満足度と収益を折り合わせるケースが増えています。

7 逆にスキー用品の手袋は、場内の売店だとずいぶん安いですが?

都会で買えば6千円から2万円ですが、スキー場では2千円前後の品が中心です。スキー場で手袋やゴーグル、帽子などを買うのは、家に忘れてきたり壊れたり失ったり、異常低温に見舞われたなど、予定外の買い物がほとんどです。大金は用意していないし、一時しのぎだったりなので、安価な製品のみ置いています。

8 スポーツ店で見ない安い製品が並んでいて、ちょっと不思議ですが?

思ったよりメインで使えるので、こだわらない人にはお得かも知れません。スキーやボードをとりあえず試す場合、スキー場で小物を買いそろえれば、意外に安く上がるのは昔からです。逆に都会のスポーツショップでは、廉価な製品だとビルの高い家賃がまかなえないので、高級ブランドの上位製品を中心にそろえています。

9 そうしてスキー場内でやりくりしても、結局どこかのスキー場はワリを食いそうですが?

スキー場単位で成功しても、スキー場同士の勝ち負けにとどまり、全体のパイは増えません。スキー業界ごと上昇させるために、スキースポーツへの参加者を増やす以外ありません。映画『私をスキーに連れてって』(1987年)の頃には、参加者が激増しましたが、5年で斜陽へ反転していて、この足の速さが問題なのです。

10 21世紀の今、何か業界の牽引役はないのですか?

次のリーダーは、カービングスキーしかありません。スキーブームが落ちた後のスキー場で、経営危機をやわらげたのは新興のスノーボードで、平易さと楽しさで客を大動員しました。しかし入門者が一巡し、ボードの神通力も一息つきました。一方、さらに後発のカービングスキーは、ボードよりもずっと日が浅く、まだ一度もブームを経験していません。カービングスキーのブームがないまま世が終わるわけはなく、その日のためにスキー場も整備計画をひそかに練っておく必要があります。