57 良いスキー板を教えてくれる人は誰?

1 すでに持っている板の良し悪しは、どうすれば判別できるのか?

上手に滑れたら良い板、下手になれば悪い板だとわかります。

2 それだけなら、すぐにわかりそうなものだが?

上手に滑れたら、そう自覚するので、良い板はすぐわかります。一方、下手になった場合は、一時的な不調や何か他の原因があると思って、とりあえず様子見するのが普通です。つまり「この板はまあまあ良い」の声は表に出やすく、「悪い」の声は出にくいのです。こうしたロジックの非対称性のいたずらによって、旧式スキーを筆頭とする悪い板から縁を切れない低迷が、確率的に起きやすいのです。

3 まずい板で低迷している自分を、そうだと知る方法はあるのか?

初めてスキーを買った時、あるいはすでに持っている場合でも、誰か先達から助言をもらうのが現実的です。

4 板への助言は、店員でもいいのか?

専門のチューンナップ系でない限り、一般にスキーショップのアドバイスには間違いがけっこうあります。総じて多いのは、知らないのに憶測で断言すること。理由は、単純にその製品を使ったことがないからです。そこまでは無理もないのですが、何か言うべき場面で、出回っているキーワードを組み合わせて説明しがちです。

5 店員の説明には、どういう間違いがあったのか?

一番多かったのは、在庫処分したいスキー板を、今流行の○○技術ができる板だと説明した誤り。正反対の製品でもそう言うので、消費者は結果的にだまされるわけです。次は、ビギナーをおだてて、上級者も手を出さない高額商品をすすめた誤り。その結果の大けがは、PL法が確立する(1995年7月1日)までは隠れた問題でした。

6 上級者も敬遠する高額商品だと、なぜ初級者はケガをしやすいのか?

実例をひとつ。私が初めて板を買った時、メーカー希望価格で、板59000円、金具25000円でした。知人はほぼ同じ頃に偶然私と同じブランドでそろえ、板79000円、金具40000円でした。私はキャリア49日で中級用の185センチ、知人はキャリア5日で上級用の190センチ、5センチ背が高い知人とはいえ、その高額な板は長くて硬いので、思うように滑れないのは当然です。

7 10分の1の経験日数としても、5センチ長い板で、なぜケガまで起きたのか?

問題は金具(ビンディング)でした。私は地味な中級用の1年落ちを自分で選び出し、知人は色鮮やかな競技用の最新型を店のすすめで買いました。私はパラレルの中速で外れない解放値(DIN値)6に自分で締めました。知人は解放値の存在を知らずに使い、板を雪に取られてひざを故障し、長い通院と医者の進言でスキーと縁を切りました。あれほど夢中になり始めていたのに・・・。本来は板がカチャンと外れるはずなので、私は不審に思って後で調べると、知人に適正な解放値4.5のはずが、雪に強く叩かれても解放しないDIN値10になっていました。

8 店が調節ネジを、うっかり最大値に締め上げていたのか?

カタログで調べたら、そういうことではなかったのです。その製品は競技用なので、解放値の設定範囲が5~14と高めに作られていて、だから中間値は9.5です。DIN値10なら中間付近です。使用者の体重は最低58キロという制限もありました。普通のレジャースキーヤーはこんなにバネが強力な製品は買わず、設定範囲3.5~9、最低体重40キロ程度の製品を買うものです。

9 そもそも店はなぜ、技量をはるか超えた上級用をすすめたのか?

上級用やエキスパート用の高額製品は、1個売った時の利幅が大きい理由がひとつ。しかしそれよりも、客への敬意を示す販売促進の意味が大きいでしょう。レベルがぴったりや下の製品をすすめられると、客は機嫌を悪くするかも知れません。そこで店員はまず上級用をすすめて、客が下のレベルを要求するのを待つわけです。これを儀礼上の推奨だと思わず、おだてに乗った客が不幸に見舞われました。

10 ボーゲンの人が、回れもしない大回転競技用の板を買っているのを見たが?

例えばマイカーを買う時、下調べで車種に目星をつけていても、契約時には上のグレード、上の車種に化けてしまう現象と似ています。しかもスキー板の価格は、トップの競技用でさえ初任給の10日分ぐらい、高級乗用車の40分の1程度なので、奮発して一番高価な競技用スキーに乗っている初級者が時々いました。バーゲンがそれに輪をかけて。当然、競技用の板は硬いので全身が棒立ちでこわばり、雪の上で動きが取れず上達しません。

11 客は自分の安全のために、何をすればいいのか?

初めて買う人は、初級者の立場がわかる人と行くこと。店員に自分のレベルを先に告げるのも方法です。今ではPL法が適用され、金具付きなら必ず店が適正値にセットし、書類に記録します。こうして、リリース・ビンディングの事故は起きなくなりました。しかしボーゲンやシュテムの初級者が、硬めの板、重い競技用金具、硬い靴、という上級セットを使うと、事故がないにしてもゲレンデの5時間が楽しくないでしょう。

12 店員を頼らずに選ぶ方法はあるのか?

メーカーのカタログが頼れます。店に並ぶ製品を見るより外れがないので、『世界のスキー用品』などの総合カタログで当たりをつけた製品を店で探します。

(後日談:2003年11月)
長年に渡り毎年発刊された『世界のスキー用品』が、2003-04版は発行されず休刊となりました。この冊子は、「全日本登山とスキー用品専門店協会」が編集し、毎年秋に各ショップに配布されるスキー用具の総合カタログで、道具を買うとくれたり、気前のいい店では無料配布、店によっては250円などで販売していました。スキー市場の縮小と、インターネット広告の発達が背景でしょうが、板のテストリポートをのせた雑誌が何種類か出ていて、製品の動向はそちらでもよくわかります。

13 雑誌のテスト記事は、頼れるものなのか?

カービングスキーの評価記事は、読み取るのにコツがいるかも知れません。複数のテスターの採点を並べるなど、信頼性は上がっていますが、相変わらずレース用やデモ用など、上級用が評価される傾向があります。実際には、テストに上がらない中級用やもっと安価な初級用でも、初級者から上級者まで、オールラウンドに楽しく使える製品があります。

14 一番安いスキーでも、しっかりした製品なのはなぜか?

日本でのローエンドは、製造国ではミドルレンジだからです。オーストリアやフランスのメーカーの製品ラインナップは、実は驚くほど多品種です。しかし店の運営維持費が大変な日本では、利幅の大きい高額商品が中心に輸入されるので、日本のカタログにのる最低グレード製品は、欧州メーカー側では中グレードの場合も多いのです。