49 コブ斜面の謎と魅力

1 ゲレンデに並ぶコブは、いったい何なのか。下の土地が凹凸なのか?

コブは雪の凹凸であり、地盤は凹凸ではありません。

2 遠くから見ると、美しいと感じる人も多いようだが?

私が初めて見た時は広いスキー場のかなり遠くからで、山の地形の奥行きがわからないから、なぜ真っ白な雪山の上の方が、ウロコ模様にギザギザしているのかが不思議で、2日後に近くまで行ってやっと様子がわかりました。何事なのか形状がわかった後でも、改めて遠くから見た時に、横から夕日が当たって影がくっきり出ていると、何とも言えない美しさを感じました。

3 コブは、いつ、誰が作ったのか?

そのシーズンのスキーヤーが作りました。別にわざと作ったわけではなく、スコップも使っていません。雪深い急斜面で、大勢が小回りするとコブが発生します。ブレーキを強くかけるターンによって、スキー板が轍(わだち)を掘ることになり、削った雪を押しのけて積み上げた結果です。後続スキーヤーは出っ張り部分を通るわけにもいかず、やむを得ずくぼんだ部分を通るうちに、皆で溝をせっせと掘り続けます。低い部分は深く掘れ、高い部分は高く成長していき、位置も少しずつ移動します。

4 コブが、いつも決まったゲレンデに見られるのはなぜか?

決定的なのは斜度で、25~35度の上級コースにはできやすく、20度以下の中級コースや初級コースにはできにくくなります。コブ斜面にチャンピオンコースの名称をよく見ますが、コブ滑走のチャンピオンの意味ではありません。ピステ車で平らにして、大回転などのアルペン競技に使う公認コースです。競技がオフで雪深いまま放置されると、集まったスキーヤーによってコブが作られます。

5 斜度が急なほど、コブも巨大化するのか?

25度よりは35度の方が、スキーヤーはブレーキを強くかけるので、コブは高く深くなります。しかし40度を超えると、滑る人も敬遠して減るし、いくら強くブレーキをかけてもずれまくって、暴走ぎみに落とされるので、轍が集中しなくなり、かえって深い凹凸が育たず、ゆるいうねりができるだけです。

6 コブを滑れると、カッコよさが際立つが?

コブをスイスイ滑れるのは、オシャレスキーヤーの理想の到達点であり、挑戦しがいがあります。これはベテランスキーヤーが、スキーに関心を持ち続ける理由のひとつでしょう。コブは、スキー板を回し込んでブレーキをかけ、飛び跳ねるように滑ってできた凹凸なので、スキーヤーがトレースするとぴったり決まって当然です。

7 コブを滑る魅力は何か?

コブのリズムに、板がビヨンビヨンとたわんで同調することで、やみつきになるような浮遊感があります。苦手な人でも少し滑れるようになると、「おおっ、これはすごい」「おもしれー」と特別な上昇感があります。整地斜面を滑る時と、感覚が全く違うのです。だからコブ斜面は、スキーヤーでにぎわいます。にぎわうと、さらにコブが深く成長します。

8 スノーボードや100センチでは、コブを滑れないのか?

取り回しが重く、敏しょうに動きにくいボードは、コブのすき間を縫うように滑るには適さず、大回りするうちに出っ張りにぶつかって転倒しがちです。コース取りも含めて今後の課題でしょう。一方100センチだと取りあえずビギナーでも降りられ、滑走というより靴で下りるに近くなり、はた目にはスキー滑走とは別ものに見えます。コブ斜面では、スキーヤーの華麗さと王様ぶりが目立ちます。

9 それにしても、初級者にとってコブがあんなにも難しいのはなぜか?

体がハネ上げられて、安定しないからです。

10 モーグル競技をテレビで見て、簡単そうに思う人もいるが?

スキー未体験の人がオリンピックのモーグル競技を見ると、ただのデコボコ雪を滑るなんてバカらしく感じたり、なぜ見せ場のエア(ジャンプ)点数や、秒数で出るスピード点数が25パーセントずつで、地味なターンの点数が50パーセントも占める配点なのかなど、疑問がわきます。しかし、その人がスキーを試して、初日にコブ斜面に入れば疑問が解けるかも知れません。

11 当然、転げ落ちてくるのでは?

ふもとに戻れたら、まだましです。「こんなに恐いのか」「死ぬ思いだった」は確実で、本当に死を予感して体が固まって動けなくなり、1時間もかけて叫びながら仲間にかついで下ろされる女性も見ました。モーグルスキーヤーは、そこを飛ぶように滑り降りています。

12 難しさは、凹凸のせいなのか、それとも斜度が急なせいなのか?

9割は凹凸が原因です。たとえ30度の急斜面でも、圧雪して凹凸をなくしてあると10日目ぐらいの初級者でも転倒しないので、コブの難しさは斜度のきつさではなく、凹凸だとわかります。もちろん同じコブ斜面なら、斜度がきついほど筋力を要して速い動作も必要で、板のコントロールが難しくなります。

13 コブを滑るコツはあるのか?

大勢で行った合宿の夜、滑走10日以下の初級者から、スキーに関するあらゆる質問を集めました。第一位、圧倒的に多かったのがその質問です。なぜ質問が集まるのか。それは初級者は誰も滑れないのに、ベテランは難なく滑るからです。コツはもちろんあり、コツを知らないとコブは滑れません。実はコツ以前の構造的知識があります。私の答は「まずコブを横から見よ」です。

14 横からだと、何が見えるのか?

波です。頂上から見下ろすと、コブの向こうは隠れて見えず、奥行きも圧縮された感じで、ストンと落ちた絶壁に見えます。しかし横から見ると、けっして階段状ではなく、波状の連続したうねりです。つまりコブを越える瞬間に、高所から飛び降りる決死の覚悟で身構えては、過剰対応だということです。連続したうねり、これが最初の知識です。

15 そうは言っても、コブを越えると宙に浮いて飛び上がり、絶壁からの身投げと同じだが?

コブの出っ張りで両足を縮め、越えると両足を伸ばします。このたった2つのコツで、宙に浮くのを防ぎます。こういう操作はパラレルの壁、小回りの壁ともに越えたスキーヤーならそう難しくはありません。問題はタイミングで、初めのうちはコブの位置に対して動作が早すぎたり遅すぎたりして、タイミングが合いません。私の場合も、セオリーだけ知っても全然ダメで、しばらくはドタバタの大笑い状態でした。