43 130センチ以下だと、スキーがへたになる?

1 さらに短い130センチ以下の製品もあるが、あれはどうなのか?

世界の先進スクールで、ビギナーの初日に活用しているそうです。生まれて初めてスキー板をつけると、倒れて10分も起き上がれない人もいて、それは板の長さを振り回せない脚力不足です。130センチ以下なら、立ち居振る舞いの容易さに期待できます。スキーは少しのコツと多くの慣れで解決するので、100センチなど思い切った短い板で序盤を慣らします。

(後日談:2008年1月)
ここでわかりやすく「100センチ」と記す2枚板は、スキーブーム中頃に出たオーストリアK社の58~63センチの製品「ビッグフット」が元祖として知られ、スキーブーム終了後にはフランスS社の90センチの製品「スノーブレード」がヒットします。当時は、これら製品名が代名詞でした。その後「ファンスキー」と呼ばれ、「スキーボード」と正式に命名されます。ドイツ工業規格((ISOも採用)では、100センチ未満ならスキーのような転倒時に板が靴から外れる仕組みが不要です。廉価に軽量に作るために、その後の製品の長さは99センチに集まっています。

2 ビギナーが歩きやすいのなら、高齢者の入門に使えないか?

ゲレンデ滑走に限らず、かんじきに近い感覚で山スキーとして遊べそうです。例えばクロスカントリーのスキー板はトップ幅45ミリ、長さは170センチ以上ですが、100センチの幅広タイプなら底面積がそれに近いので、置き換えも可能でしょう。バスや電車でもかさばらず、旅行者にも手軽に雪山歩きができます。テレマークスキーに発展させるなども考えられます。

3 100センチまで短いと、前や後に倒れそうだが?

100センチをつけた若いビギナーをわずかな時間教えた時のこと、今立っていたかと思うと、両足をポーンと前に投げ出し、ソールを天に向けてデーンと尻餅をつきます。スキーではありえないバク転が起きて、一歩動くとまたデーン。まるでスケート漫画の一シーンです。100センチは万人に向くとも限らず、このような若く快活なビギナーは140センチがよかったのでしょう。

4 最初が100センチで、その後も伸ばさずにいると、どうなるのか?

いつまでも短いままだと、スキーの練習に入れません。スキー初級者が100センチを続けても、スキーの習得には至らないことが判明しました。

5 なぜ板が短いと、スキーが習得できないのか?

接雪長が短すぎると、バスケットボールのピボットのように、かかとを軸として板をクルクルとスピンできます。するとそこが穴となって、バランスを崩しても足元をクルクル回したり、にじり寄せて持ちこたえる習慣がつき、重心位置を調節してバランスを保つという、スキーの基本動作が身につかないと考えられます。

6 100センチをしばらく続けてスキーに交換すると、何が起きるのか?

転んでばかりで滑れません。100センチから150センチのスキーに乗り換えた後も、いつものように無意識にピボット動作でバランス取りをやってしまいます。ところがそのリカバリーは短い板に特有の抜け道であり、長い板だと雪に食いついてズレないから、抜け道をふさがれたかっこうになり、瞬時に転倒します。体がパラレルターンを覚えないのです。

7 覚えなければ、どうなるのか?

上達したという喜びが、もうひとつ足りません。

8 いっそ長い板に一生乗るのをやめて、短い板だけに乗れば済まないか?

長い板だけでなく、短い板も上達しにくいのです。

9 すると、100センチを使うと行き詰まって、将来がないのか?

スキーの練習に代用できないだけの話で、将来性や楽しみはどれにでもあります。

10 スキー中級者や上級者ならば、同じことは起きないのか?

少し整理しますが、今スキーヤーが100センチを使うケースは、大きく2パターンに分かれています。パラレルスキーヤー、つまり中上級者が「手を広げた」サブのケースと、ボーゲンで行き詰まった初級者が「スキーを捨てて転向した」メインのケースです。後者の場合、「こりゃ楽だ楽だ」と喜んだ人を追跡すると、意外にも年々スキー場へ行く回数が減っていました。

11 なぜスキー場から遠のいたのか?

元々コアスキーヤー志望でないからでしょうが、「難しいスキーをやめて100センチへ」という避難所的な使われ方も関係するかも知れません。ビジュアルな目立ち型スポーツでは「カッコよさ」「敬服」も無視できず、行くモチベーション(動機づけ)が案外効いてきます。100センチで板同士踏まず転ばない喜びも、一段落して30日も滑れば、関心に区切りが来る可能性もあります。

12 どういう区切りか、なぜ30日か?

パラレルの壁越えの所要時間が、旧式スキーでも32日だからです。後輩がカービングスキーで始めれば、その日数以前に壁を越え、いっぱしのスキーヤーになります。そのめざましい進歩に当てられるでしょう。パラレルがいかに高い壁でも、日を重ねれば誰もが越えます。一方100センチで30日滑ってもスキーのパラレルには至らず、後から入門したカービングスキーヤーに技術力で抜かれていきます。

13 スキーで15日、100センチで15日、合計スキー30日の腕前にはならないのか?

15日分のスキー技術が、16日目以降の100センチに打ち消されます。広島のゲレンデで、リフト隣の100センチユーザーから「これで滑るうちに、スキーが全くできなくなりました」と困惑の声を聞きました。真剣な雰囲気なので、何か励まさなくてはと、リフトが着くまでに色々考え込んだほどです。パラレルに向けてある程度は積み上がっていたスキーの腕前が、100センチで消えたとまどいを訴えていました。

14 100センチがゲレンデで少数派なのは、そうした心配のせいなのか?

その理由は、大多数が転向した先はスノーボードだったからです。1800年代から100年以上続いた旧式スキーが1997年に終止符を打つと、全てのスキーヤーに4つの選択肢が与えられました。(1)ゲレンデから撤退、(2)後継のカービングスキー、(3)目新しいスノーボード、(4)ニッチな100センチ。(1)と(3)への「転向」はスキーとの縁切りですが、(4)の中には縁切りのつもりはなく、保留で一時退避したケースがあります。しかし先述の原理で、スキーに戻りにくくなるのです。

15 100センチはスキーではないとする、公式の定義があるそうだが?

ドイツ工業規格にならい、アメリカの競技でも区別されていますが、アメリカ的な消費者保護もあるかも知れません。入門者は100センチでスキー動作は身につきにくく、ボーゲンやシュテムスキーヤーはスキーの蓄積が消去されます。スキー練習のつもりで100センチを買った初級者がいれば、望まぬ技能退行でメーカークレームもあり得ます。アメリカには、勘違いさせる可能性を持つ製品を告発して回る、訴訟企画の専門弁護士がおり、ささいな被害でも大きな賠償金が動きます。

16 100センチの良さもあるはずで、半端モノ扱いに反発も起きてこないか?

だから、スキーと別物に区切ったのだと思います。ここで述べたのは、100センチの優劣の話ではありません。初級スキーヤーが100センチに移った場合、スキーとみなすと当てが外れることを報告しています。それも初級のボーゲンスキーヤーにのみ起きる現象です。中級のパラレルスキーヤーが100センチでトリックを遊んでも、得るものばかりで何も失わないのに、ボーゲンスキーヤーがスキー上達の近道のつもりで滑ると、見込み違いが起きるメカニズムです。

17 長年スキーがダメだった人が、100センチに替えて上達した話もあるが?

ですから「100センチの上達」を「スキーの上達」と混同し、後でがっかりした嘆きをみて、上達は150センチのスキーをカバーしないと警告しています。例えるなら、自転車を練習中の子が三輪車に乗り替えると、確かに転ばなくなっても、だからといって自転車の習得にはならない意味です。一方すでに自転車に乗れる子なら、三輪でも四輪でも何も失いません。同様に、パラレルスキーヤーは63センチから215センチまで、何でもござれです。この違いが、パラレルという名の特殊技能なのです。

18 つまり100センチが上達したと言っても、単なる幻想というわけか?

幻想ではなく、本当にうまいのです。ただしうまいのは100センチであり、スキーではありません。それを確かめるには、150センチのスキーで滑ってみれば早いでしょう。スイスイ行けるなら、初めからスキーと両立した正真正銘のパラレルスキーヤーなわけで。100センチユーザーのうち、スキーを捨てて転向した人は南の県に多いようで、雪国ではほとんどがスキーと両立させて楽しんでいます。

19 パラレルスキーヤーは、100センチから得るものはないわけか?

学ぶものがあって、一番欲しいのは「フリー」感覚です。スキーは普通ガンガン滑り、100センチはヒョイヒョイ滑ります。これ、実は気持ちにも同じ違いがあって、従来のスキーヤーは滑りのフォームに過熱し、本人はレジャーのつもりでも、見ようによっては根性マンガか塾通いの生徒でした。「遊ばずに、ちゃんと滑れ」という変な世界です。一方100センチは、雪の中で遊ぶ楽しさが全開です。スキーに欠けた娯楽性に満ちていて、スキーを100センチのように使えないか考えてしまいます。