35 スキーは階級社会か

1 スポーツには封建道徳がつきものだが、スキーはどうなのか?

時々ヒョッコリ現れました。平成バブルのスキーブームの後半、「神聖なスポーツたるスキーのレジャー化を嘆く」新聞コラムがありました。文意はこうです。純然たるスポーツのはずが、近年遊び半分のスキーヤーが増えることで、真剣に取り組むスポーツマンシップ全体に悪影響はないのか・・・、と。評者は、ミーハー(軽薄の意味)レジャーに集まる若者たちの尻の軽さにも、批判の矢を向けていました。

2 軽薄とされた青年たちは、何を考えてスキー場に集まって来たのか?

スキーが当世一番おもしろそうな新天地としてトピックだったから、集まったまでです。宣伝広告に従っただけ。要するに流行であり、軽い気分でした。それより前に始めた私も何の志もありません。しかしこれまで何度も説明したように、ずんどうスキーで滑って曲がるのは予想外の難解な重労働でした。多くの若者は、あり余る体力と情熱で挑んでも、思うように滑って回れず、軽薄な気分になれずに力尽きて去りました。

3 「簡単なカービングスキー」と紹介すれば、道徳筋から批判が起きそうだが?

カービングスキー批判は、雪国のハイアマチュアに広く見られました。一部ですが、北の県では反対運動まで起きたのです。ところが総本山のトッププロたちが絶賛し、指導界の長老もやさしい指導書を出し、新しい滑りの画像を矢継ぎ早に送り出すうちに、カービングスキーに軍配が上がって形勢が決まりました。ただ、「簡単批判」がアマチュアの中堅から猛烈に吹き出した事実は、スキー社会がかかえる困った一面です。

4 入門者の目には、スキー社会の内側の序列が、けっこう気になるが?

スキーヤーが集まれば、上手な順に序列イメージが何となくできるのは、やはり気になります。上手でカッコいい人と、下手でカッコ悪い人が絵として固定しがちで、入門者が身を立てるには上達以外なかったのです。上位は鼻が高く、下位は引いた態度という、ヒエラルキー社会も見てきました。それに対し、ゲレンデの過ごし方を変えたのがスノーボードです。堂々と「これは遊び」と考え、雰囲気がくだけています。スキーよりもウォームな仲間意識があります。

5 スノーボードは、滑っている以外の時間が多いようだが?

ゲレンデのはずれに雪のジャンプ台をつくり、仲間でワンメイクの芸をします。スキーでは滑走する姿を見せ合いましたが、ボードでは跳ぶ姿を見せ合います。スキーにはないおおらかな楽しみ方で、初級者でもトリックジャンプで皆を楽しませる奥の手もあります。つられた仲間がスキーで跳ぶ光景も見るようになりましたが、こうした一芸とギャグのエンターテインメントが、コアなスキー界では流行りません。

6 ボーダーの腕前もピンキリなのに、なぜスキー界のようにならないのか?

スキーの階級社会に対して、ボードが均質社会になる理由は、両足の固定です。スキーの場合、滑るまでもなく、雪に立つ姿でレベルが一目瞭然です。一方ボードは、初級から超上級まで足の開き方や立つ姿勢に差がなく、プルークとパラレルの違いもありません。スケーティングスタート、ステップターン、片足ターンはもちろん、クローチングフォームなどの「おかず」も普通はありません。ボーダー同士の技量差は、見かけ上かなり圧縮されます。

7 ボードもよく見れば、技量の違いが表れているはずだが?

よく見なくても、明確すぎる違いが姿勢に表れるのがスキーです。例えば、パラレル前のスキーヤーはハの字スタンスで、体は直立ぎみに後傾となりがちで、これは一目でわかる初級レベルのサインになっています。一方ボードにハの字はないし、両足はバラけず常に正しいスタンスを保ち、棒立ちも起きないでしょう。回れる人と回れない人の違いは、回れたかどうかです。滑り方をまるきり間違えて、見るからにおかしい我流のきつい姿勢は、ボードでは起きないのです。

8 その違いに、何か意味があるのか?

実力差が外見に明瞭に出る、むしろ出すぎるスキーでは、ベテランは華麗に目立つので王様です。そのせいで、スキーは腕前を見せびらかす面が強調された、特異なスポーツになっています。昔から出回るおしゃれなイメージは、この派手な見た目が主な原因でしょう。対するボードは、インストラクターでさえ地味に映ります。写真にして比べると、その違いがわかります。これが、スキーは階級社会、ボードは均質社会と分かれた大きな原因だと思います。

9 それにしても、スキーの重厚さ、ボードの軽快さ、という差は何なのか?

スキーはオールドファッション、ボードはニューファッションという、歴史の長さとも関係があります。ボード界は立ち上がって日が浅いので、重鎮やお偉方がいない若いスポーツです。例えるなら、高校や大学の新設校に一期生として入学し、下級生はいても、上級生はいない気楽さです。古参が存在しないので、「近頃はダメになった」などの小うるさい説教も聞かずに済みます。

10 その新天地で競技を目指す人も、一時は目立ったが?

年季を積んだ中高年のボード人材がいない中、早いところ練習を積めばトップになれる可能性も、スノーボードの当面の魅力です。オリンピックの伝統種目より、新種目の方がメダルへ近づきやすい理屈です。

11 今さら歴史あるスキーに参加しても、天下を取るスキがないわけか?

ところが、レジャースキーではあるのです。新しいカービングスキーがそうで、旧式スキーから移行する過渡期で、戦国時代になっています。カービングスキーを、何かと敬遠するベテランが多い中、いち早く移れば上級生のいないカービング一期生です。これは半分冗談ですが、旧式で末尾にいた人でも、カービングスキーを味方にした大化けは、ある程度はリアルな正夢です。初級者が中級者を出し抜いて、ぶっちぎれます。

12 ボーゲンの姿をさらす期間があるからスキーはイヤとの意見が、スノーボーダーに多いが?

それをパラレルの壁と呼ぶのですが、カービングスキーで壁は低くなりました。パラレル前のスキーヤーが、硬直した棒立ちのへっぴり腰で、流されるように落ちて行くカッコ悪い姿は、実は旧式スキーの産物でもあり、カービングスキーではああはなりません。板が変わってスキーヤーが動き回りやすくなり、初級スキーヤーの姿勢もカッコがつくよう変わっています。