34 昔、前傾あるのみ、今、後傾もどうぞ

1 以前は体重を前にかけろとよく言われたが、今もそうなのか?

カービングスキーでも、前傾ぎみに体重を前にかけるのが基本です。ただし後にかけても難なく滑れ、旧式スキーのように体が遅れておしまいということはありません。

2 かつて前傾が、あれほど重視されてきたのははなぜか?

後傾だと板がすっぽ抜けて、人が置いていかれるのは周知のことですが、前傾の本当の目的は、斜面に垂直に立つことです。注意してください、「地球に垂直」ではなく「斜面に垂直」です。スキー板は10~30度の下り坂に置くので、もし人が「地球に垂直」だと、スキー板に対し10~30度も後にのけぞった奇妙なかっこうになります。

3 前傾は間違いという人もいるが?

「前傾はダメ、後傾もダメ、真ん中に立て」の言い方は、「前傾せよ」と全く同じ意味です。「斜面に垂直に立つ」人は、斜面を水平面に見立てた模式図で考えると、真上に向かって正常に直立しており、前に「余計に」は倒れていません。この状態を目標に「真ん中に立て」と言うわけです。

4 ならば「真ん中に立て」と、ズバリ言ってあげればいいのでは?

ビギナーが「真ん中に立て」と言われれば、坂道を靴で歩いて降りる時のように、地球に垂直に立ってしまいます。下向きに傾いたスキー板に対し、体は後に倒れているのに、本人はほどよい位置だと感じます。すると体は後追い状態で、板が前に抜けて背中から倒れたのです。この失敗を防ぐために、前傾せよと教えます。

5 いくら言われても前傾できない時は、どうすればいいのか?

ゆるめの斜面に移ります。また、体重が重い人用に設計された硬めの板や靴は、前傾をやらせてくれない性質があります。あるいは児童は、足腰の筋力が足りずに後傾になります。「どうしても前傾できない」素質の人はいません。つまらない原因の場合も多いのです。

6 ほどよく前傾している状態かを、自分でチェックできるのか?

体が先を行って、板が後からついてくる感覚があれば良好です。自分が板の先端に乗っていて、しっぽのようについてくる板を引き回している、そんな感じです。しかし慣れるに従い、感覚と実態のずれは消えていきます。

7 自分の感覚と実際の姿勢が、最初は大きく食い違うのはなぜか?

恐怖心がよく言われますが、体験の少なさもあると思います。自分は、前傾して、重心を下げ、腰を前へ出して、高速のつもりでも、他人から見れば、後に倒れ、棒立ち、腰が引けて、ノロノロです。皆でビデオ撮影して見せると、自分の姿勢が思ったものと違いすぎてショックな人がいますが、一度確認すれば意識して補正もできるでしょう。

8 カービングスキーでは、前傾と後傾を使い分けやすいそうだが?

実は上級者は、ターン後半の山回りでやや後傾し、次の谷回りで体をかぶせるように前傾するリズムをよく使います。前傾ばかり続けると、突き上げの衝撃を受けやすいし、つんのめることもあります。また、スキー板はトップが一番幅広で、テールはトップよりは狭く作られています。後傾を入れると回り方を甘くすることができます。

9 急斜面の場合も、思い切って前傾すればうまく滑れるのか?

急斜面で一番必要な姿勢は、外向外傾です。急斜面に立つと、転落を防ごうとつい無意識に山側に体を寄せて、引いてしまいますが、あえて谷に向いて、しかもガバッと身を乗り出せば不思議なほど安定します。これも前傾の一種かも知れませんが、欲しい感覚は体をねじるような外向外傾です。

10 最初からいきなり急斜面でキモだめしすると、慣れるのも早いのか?

旧式スキーの怨念のひとつに、急斜面ショックがありました。スキーは二度とやりません、と強く言い切る知人が男女1人ずつおり、原因は2人とも生まれて初めての日に、30度の急斜面に連れて行かれたのです。私は3日目に35度斜面でしたが、2日の基本練習時間を取っただけでも、板をズリ落ちなくするカンだけははたらき、怨念は起きていません。後に私は、ビギナーを2日間は急斜面に行かせない主義となりました。

11 斜面の見え方は心理的だそうだが、無理に降りるとどうなるのか?

斜面の見え方は明らかに心理しだいであり、だからこそ心理的に負けている時に、無理しても玉砕するだけで意味がありません。自転車の練習でも、乗れない子を自転車に座らせ、指導者が後から押して途中で手を離す方式では、バランス感覚を養う暇もなく、路上に転倒するだけで逆効果です。スパルタ方式は実りがなく、少しずつ慣らす方が近道です。

12 心理状態によって、同じ斜面の恐さが日替わりすることもあるが?

昔、北アルプスのゲレンデで、立ち止まって遠景を写真に収めてから滑り出すと、なぜか何度も転びました。道草を食わずサッサと降りると転ばないのが、当時から不思議。これは森林限界を超えた、美しくも険しい山岳風景に見とれるうちに、気持ちが圧倒され全身の筋肉まで萎縮し固くなったせいと考えられます。急斜面では足元ばかり見た方がうまくいくし、濃霧の急斜面では転倒しにくい説も有力です。

13 しかし今やカービングスキーがあるので、急斜面の恐さもやわらいだのでは?

ホントにあっけないほど恐くなくなって、旧式スキーで長年損した思いが強まります。正月に、25度の荒れた斜面を時々尻餅をついてヒョイヒョイ降りてくる人がいて、聞くとスキー歴1週間でした。たまたま買ったというカービングスキーの威力に、人にすすめて回る私の方が驚きました。旧式スキー時代の1週間目では、あの荒雪の急斜度は回るどころではなく、板がバラバラに飛ぶ転倒は間違いなかったからです。