13 谷回りができれば、パラレルの壁は突破

1 スキーの山回りと谷回りは、どこがどう違うのか?

スキーヤーは、山回りする間は切れ上がって減速し、谷回りする間は切れ下がって加速します。足が雪を押す方向は、山回りではもちろん下方ですが、谷回りでは何と上方です。例えて言うなら、天井を上にけって床に向かってダイブするようなイメージが、谷回りなのです。上級者が当たり前のようにやる谷回りが、初級者には謎の謎でした。

2 谷回りは、なぜそれほど難しいのか?

谷回り中は加速し続け、フォールライン(最大斜度線=真下)に向いた瞬間に加速度が最大になって、恐くなる点がよく指摘されます。しかし斜度がゆるくて恐くないゲレンデでさえ、谷回りがとても難しい点は、この説を否定する材料です。まず物理的に考えると、山回り中に山側に寄せた重心を、途中で谷側に移し始めないと、山回りは終われません。直進ばかりして曲がれない自転車練習のミステリーと同じで、山回りし続けてゲレンデを横へ進むだけです。

3 谷回りの、どの部分が難しいのか?

難しいのは、谷回りの「最中」ではなく「入る瞬間」です。境目の切り替えが難しいのです。まずは山回りで滑りながら、頃合いをみて谷回りに入ろうと思っても、簡単には切り替わりません。思い切って力んでも、やっぱり切り替わりません。ついに切り替えたものの、今度は板がガバッとハの字に開いてしまいます。どうやって境目を突破するか・・・

4 谷回り切り替えの境目を、遅れなく突破するコツは何か?

切り替える2秒前から、重心移動という行為を開始することです。曲がる前から、体を倒し始めます。

5 それでは、谷回りと重心移動の因果が堂々めぐりしないか?

谷回り開始と重心移動は、本当に鶏と卵の関係です。体を傾けないから回れない、回らないと遠心力が生じず傾けられない、だから回らず直進する、直進すれば体が傾くわけがない、よって回らない、従って傾かない、回らない、傾かない、回らない、傾かない・・・。そうするうちにゲレンデの端に来てしまって・・・。

6 その悪循環の、どこに突破口があるのか?

曲がるべき瞬間よりも2秒前に、自分から仕掛けます。谷回りが間延びしてズルズル行く、そうなる前に先手を打って、漫然と立って乗せられている自分を変化させます。どういう変化か。山回り後半に、重心を谷へ移そうと行動を開始します。板に対して、体を谷側へと移し始めます。板と体の位置関係を、わざとずらすのです。

7 よく「体を入れろ」という指示を聞くが、それとは関係があるのか?

回転の中心側に体を倒し込む動作を、「体を入れる」「内に入れる」と言い、重心移動の意味です。要するにバンク。では「境目」で必要なバンク量はどの程度か、それは自転車やオートバイと同じで、遠心力に釣り合わせながら徐々に傾けます。一気にグイッではなく、ゼロからさりげなくスムーズに体を内へ入れていき、するとどこかで両スキー板のエッジが切り替わって、谷回りになります。

8 足をねじり回して板の向きを変えようとした、あれは全く間違っていたのか?

スキーの曲がる原理はそれではありません。正解は、曲がる方へ体を少し倒し込み、体で両板を牽引する感じです。右(時計回り)へ山回りターン中なら、板の右に体があるはずで、途中でその体を板の左へ移していきます。それも、まだ右回りしているうちに。ある程度以上体が左に移ると、足を通じて板はローリングしてエッジが反対側に切り替わります。

9 切り替えに、何か秘伝はないのか?

スキー板にどんどん山回りを続けさせ、乗せられている体は途中で回転についていくのをやめます。回り続ける足だけを向こうへ行かせて、投げ出してやる形にして、体をこちらに取り残してやれば、足と体の位置関係が逆転し、重心移動はあっさり成功します。

10 足をそうやって向こうに投げ出すのは、とても難しいのだが?

姿勢が高いから、全くできないのです。何のことはない、中腰で姿勢を低くすれば簡単になります。ボーゲンスキーヤーは、全身がひとかたまりに固定した「置物の人形」がクセになり、技量が上がっても頭の位置が高いまま続けがちです。頭を低くして、両足が上体から独立して動くようにします。体を右へ傾けると板が右へ行って、途中で体の傾きを弱めると、板が帰り始める準備になります。

11 どういう感覚を得ればいいのか?

いくつかの表現を並べます。(1)体の周囲にスキー板をまとわりつかせる。(2)体を中心に足が振り子のように行き来する。(3)腰から下を右へ投げ出し、戻って来た勢いで左へ投げ出す。(4)体は前へ進み、足は左右へ蛇行する。

12 カービングスキーの利点は、どこに現れるのか?

(1)板が自分から曲がってくれる、(2)角づけ具合がよくわかる、(3)足場が安定する、(4)反応がよい、などです。(3)足場の安定が特に大事で、「置物の人形」の卒業が容易になります。

13 足場の安定はわかるが、角づけ具合がわかるとは、どういうことか?

「板が雪にどう接しているのか」を体感しやすい利点です。旧式スキーだと雪にかんでいるのか流れているのか、操作感があいまいでした。カービングスキーだと、板のグリップ力で雪によく食いついて、力伝達が大幅に向上するので、何が何だかわからないアバウト感は軽減します。

14 板がローリングする途中で、先端があっちこっち向いてバラけるが?

スピードでごまかします。山回りから谷回りへ切り替える境目の一瞬は、板のエッジ全部が雪に作用しないフラット状態になり、カービングスキーでも不安定です。この一瞬は、適度なスピードを出せばヒョイと容易に通過できます。なので最初は勢いに乗って、谷回りに入るようにします。自転車が低速すぎると、フラフラとバランスを崩してかえって転びやすくなるのと似ています。

15 谷回りができるようになるのに、一番必要なことは何か?

やっぱり練習の量と質です。一番はターンの回数で、盛大にハの字になってもかまわず連続ターンします。うまくいかなくても、考え込まずにターン数をかせぎます。どんどん続けて、回った数が大事。補助輪付き自転車では、立ち止まって作戦を練っても解決せず、走り回らないと補助輪を外せる日がきません。その途中がカッコ悪そうだと意識してターン数を減らすと、こたつで過ごす冬に戻ってしまうでしょう。