『はるか昔の怪奇談』という絵画シリーズ。その中の『羽のない妖精』という作品を、そっくり転写しています。
20世紀に起きた謎の怪現象、その決定的な証拠とされた「妖精の写真」。ニセ写真を作ろうと思い立った姉妹の発想、市販の絵本から薄紙にトレースした図画を切り抜くあどけなさ、一部に羽をつけるのを忘れたまま撮影してしまった初歩的ミス。
そんな欠損にも気づかず本物だと信じて賞賛し、お墨付きを与えて語りぐさになった有名人。名探偵シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルなどの登場人物も、抽象化して盛り込んであります。
真偽は早くからわかっていたのに、各国に伝わる時には情報はカットされ、脚色の文章が多く書き足されました。読者をだます目的に化けていたのです。ひとつの虚偽が大勢の利害を巻き込んでいく宿命を、シリアスに表そうとした悲喜劇の絵です。