33 シュテムターンの練習は今も必要か

1 ボーゲン、シュテム、パラレルと、練習順序は昔と変わらないのか?

カービングスキーの初級の練習は、パラレルが大部分になります。パラレルの壁を越えるためにパラレル中心で滑るのは一見奇妙ですが、要はシュテムターンが不要になる意味です。スキー体験者は「山開き踏み出しのシュテムターン」と「谷開き踏み蹴りのシュテムターン」の語は耳タコでしょう。「両開き」というのもありました。しかしもうこれらを習得する意味はみえません。プルークボーゲンから、肩幅スタンスのパラレルの練習に一気に進みます。

2 初級スクールでは、パラレル以外にも様々なことをやるようだが?

全てが、パラレルに近づくためのトレーニングです。例えばハの字で真下に滑って両足同時に雪を押す練習は、ボーゲンの上達が目的ではなく、板の裏で雪をとらえるのに慣れて、パラレルの壁を低くするのが狙いです。途中の練習は何一つ完成させずに使い捨てながら先に進み、パラレルに到達します。こうした練習の中で、シュテムターンは意味を失っています。

3 シュテムターンは、一切やらなくていいのか?

やります。しかし練習はしません。意識せずとも、無意識に、自動的にやるからです。型として習熟する意味がありません。山回りはきちんとパラレルで、谷回りだけプルーク(ハの字)に開いて補助するのがシュテムターンです。カービングスキーでもシュテムは生じますが、パラレル化しつつある途中段階で、あいまいに残った部分的ボーゲンが自然発生するだけの話。勝手に起きる現象を、抽出してシミュレーションし身につける練習は、「練習のための練習」になってしまいます。

4 シュテムターンの成果は、今や期待できないということか?

成果は、過去も含めて疑問です。教則通りのシュテムターンの型を律儀に練習してパラレルに上がった人は、本当にいるのかも疑問です。私も該当しません。大方の人は、平行に近いプルークスタンスを続けたある時、ヒョイとパラレル化する上がり方です。曲がるたびにシュテムになる未完成のターンでも、「乱れた平行スタンス」で十分機能しているわけです。あえて観賞用の、美しいシュテムを決めてやる必然性がないのです。

5 かつてのシュテムターンの練習は、いい結果を生まなかったわけか?

むしろ、スキーをやめたい気持ちを後押ししました。「ボーゲン以上パラレル未満」の初級者にとって、「正しいシュテムターン」は非常に難しいので、やればやるほど気落ちします。我流の人が、試しにスクール教習に参加して意気消沈したのは、型としてのシュテムの難解さです。試技のたびに細かい注意を受けて、スキーの野性的なおもしろさは消えています。ハの字になる原因は、トータル滑走時間の不足でバランス感覚が足りないせいです。なのに、よろけていない時に板を開いてみたり、よろけているのに板を引き寄せたりと、状況に逆らった無理な演技を強いられ、ストレスがたまりました。

6 カービングスキーでは、シュテムターンの代わりに何をするのか?

後回しだったショートターンを増やすべきでしょう。カービングスキーは雪へよく食いつくので、ターンのリズムを短く区切りやすく、これを早くから利用しない手はありません。ショートターンだと1日のターン回数が増えるので、バランス感覚をつかむ鍛錬の効果が大きいのです。

7 斜滑降は、カービングスキーでは重要でないのか?

斜滑降は直接パラレルに通じるので、横滑りと同様に抽出した練習が必要です。構造的にみると、ボーゲンでは両足の親指で雪を押さえるのに対し、パラレルでは片足は親指、片足は小指で押さえます。内スキーの置き方が違うので、ボーゲンの延長にパラレルはありません。むしろ曲がらずに進む斜滑降の方がパラレルに近いわけです。パラレルターンの姿勢は斜滑降の姿勢そのもので、そのまま回れば即パラレルです。

8 ボーゲンの延長にパラレルがないなら、なぜボーゲンの練習があるのか?

プルーク(ハの字)スタンスの実用性は転倒防止、つまり自転車の補助輪の意味と、もうひとつはブレーキです。訓練としての効能も実に大きく、板の裏で雪をとらえて押す感覚に慣れるには、最初はこの方法しかありません。

9 斜滑降や横滑りの練習で、重要なポイントは何か?

個別に完成させるよりも、全身運動として慣れるのが目標です。斜滑降から急に止まったり、山側へ上がったり、谷側へ切れたりします。谷側へ切れるのは本命の谷回りなので、スピードが出過ぎない緩斜面でスピードを出して試します。横滑りも最初から精度を求めずに、板の裏でざっと雪をつかむ感覚に慣れます。

10 斜滑降や横滑りに、どれぐらい時間をとればいいのか?

1日3分でいいでしょう。わずかですが、練習ゼロよりは大幅に進歩します。つまりカービングスキーの実際の滑走時間の内訳は、肩幅のパラレルスタンスのまま両足で雪を押し、フワリと浮く反動で両板を切り返して姿勢の反転をくりかえす、この大まかな動作に大半を費やします。板がハの字に乱れてもいいから、リズムが途切れないことを優先して。

11 初級者でもカービングスキーを使うと、ターンが止まらず連続しやすいのはなぜか?

サイドカット半径が小さなカービングスキーは雪をよくつかまえるので、板を強く押さなくても弾力を元気に返します。すると動作が萎縮ぎみでも、ヒョイと谷回りに入りやすくなります。板が率先して、仕事をしてくれるわけです。一発曲がるために「でやーっ」と力んだり、谷回りに入れず立ちすくんで暴走、というパターンは激減します。

12 カービングスキーと旧式スキーは、基本や滑り方は同じだとも聞くが?

パラレルの壁で低迷中の立場には、大違いです。レジャースキーヤーにとっては原理の共通性よりも、難易度の程度の問題の方が進退をゆるがすからです。また両スキーには、動作が干渉する違いがあるのも確かです。具体的には、カービングスキーから旧式スキーに戻ると、体を倒しても板はついてこないで直進してしまい、遠心力が足りずに内側へ転倒します。だから、カービングスキーとずんどうスキー(今ならモーグル用)を両用する人は、マニア以上に限られます。