22 スキーはなぜ生涯スポーツか

1 スキーが代表的な生涯スポーツなのはなぜか?

歳をとっても楽しめるからです。中学や高校の部活動によくあるスポーツは、60歳、いや40歳でも続けていない場合がほとんどです。一人の生涯の中で、「見るスポーツ」ではない「するスポーツ」は、青春の思い出として過去形になりがちです。ところがスキーは年齢に関係なく続けやすく、現在進行形を保ちやすいのです。

2 高齢でも、引退せずに続くのはなぜか?

スキーの特徴として、(1)特殊技能である、(2)技法が多様、(3)体力勝負でない、(4)単独行動が可能、などが目立ちます。(1)(2)は若者より中年に分がある一面であり、(3)(4)は高齢者を閉め出さない有利な条件です。

3 恐がってやめる若者も多い激しいスポーツなのに、高齢でもできるのが不思議だが?

他人と戦わないからです。もし勝ち負けを競うゲームスポーツだと、強敵相手にオーバーワークとなり、限界を感じるでしょう。かといって弱い相手を選んだら、スポーツマンシップに触れます。互角あるいは手加減する相手がいないと不都合です。その点スキーは自己完結するので、対人的な限界が存在しません。自分のペースでできるので、登山や山歩きに近いかも知れません。

4 生涯スポーツという割には、テニスやゴルフに比べて若い人が多いが?

スキーウェアのデザインのせいもあります。近づいて話せば年輩者も多く、単に雰囲気が若い世界だといえます。どうしても気持ちが若返るのは、ボールでなく自分が飛ぶからでしょう。当然、体の動きは強く、速いものになります。それでも限界が来にくいのは、年齢による体力低下や緩慢動作を、斜面の選択でやわらげ、年季で得た省力化で解決するからです。アイスバーン急斜面のラインコブを、孫を連れてポンポンと旧式スキーで降りる高齢者を見ましたが、さすがに雪国育ちでしょうが。

5 若い時に始めた人が歳をとると、スキーの腕はどう変化するのか?

体力を技術力に置き換えていきます。例えば私はスキーに入門したボーゲン時代に、垂直跳びは80センチでした。ところが中年になって試すと、何回勢いよく跳び上がっても35センチ前後で、なのにスキーでは素早いジャンプ小回りも楽勝で、青年時に比べて圧勝でした。いずれは、ゆるい斜面をのんびり滑る方に関心が移るのでしょう。91年に大山でいっしょになった70代の人は、中ノ原の3連ゲレンデのうち、旅館街に近い一番下ばかりを3日間滑っていました。

6 上限は、何歳まで滑れるのか?

冒険スキーの三浦雄一郎氏の父である敬三氏は、97才の現役プロスキーヤーです。メーカー・アドバイザーと山岳写真家だと聞きました。やはり一定の健康管理は欠かさないようです。先達いわく、動くから動ける、つまり余暇の余技ではなく、スキーを前提にした人生設計だそうです。

7 その昔、スキーは30才までに覚えろと言われたが、今もそうか?

人間30才で思想が固まり、心の柔軟性も固まる説がありますが、スキーでも年長者は習うのが苦手です。転ぶスポーツなので、体の柔軟性をいう説もあります。しかし最大のネックは見栄です。経験ある年長者を団体ツアーに誘うと、「自分はヘタだしなあ」と遠慮します。技量が外観にビジュアルに出るので、姿を見られたくないようです。退職するまでの問題でしょうが。

8 高齢で始めた場合、継続しにくくないのか?

進歩がゆっくりでも許せる人は続きます。93年に大山で同室になった人は、夕方暗くなっても旅館に帰らず、リフト終了の17時半まで滑っていました。定年退職した60歳と聞きましたが、1カ月前に始めたばかりで、いくら転んでも平気。ああも童心に返れるのは、やはり好奇心だと思いました。ただ取っ付きで成功しても、パラレルの壁は必ず来るので、その後カービングスキーを入手し軌道に乗れたかは気になります。

9 カービングスキーは、高齢者にとっても簡単なのか?

簡単で転倒も少なくなります。省力スキーなので、生涯スキーが身近になりました。旧式スキー時代にも「スキーに年齢なし」と一応は言われましたが、ブレーキに強い筋力を要し、すっぽ抜けて転倒しやすく、体力があり余る若者さえビビって退散する始末でした。雪国限定に近かった生涯スポーツが、カービングスキーで都会人にも平易になり、板は今後もさらに改良されていくでしょう。

10 カービングスキーに変われば、生涯スキーの何が一番変わるのか?

到達点が上がります。スキー技術はいくらでも上があるので、簡単になった分だけ、皆が上を目指します。おもしろいことに、カービングスキーだと、ゲレンデが広く感じられます。旧式スキーはゲレンデ端の雪深い部分が苦手なので、皆が中央付近に集まっていました。ところがカービングスキーなら荒い雪でも滑って遊べるので、コース細部にも目がいくようになり、スキー場の実質面積が広がった形です。

11 長くスキーを続けた人が、一番楽しかったのはいつ頃なのか?

誰もが、今が一番と言うでしょう。しかし、初級時代を振り返ると夢のようです。不安と期待が交じる中、手探り冒険の成果は、ベテランの境地よりかえって大きかった気がします。子どもが自転車に乗れた日、世界がパッと広がって、明日は町内をあちこち回ろう、来週は友達といっしょに隣町に足を伸ばそうとワクワクする、あの初恋的な心境はパラレル直後だけです。壁にはばまれていた低迷期は、壁を越えて美化されるのかも知れません。