現代美術とCGアートの謎と疑問に答えるQ&A もくじ
電子美術館のQ&A

129 ハイヒールやパンプス問題と日本の貧困化

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2019/7/7

――ハイヒールやパンプスの正装が、女性差別やパワハラだとして訴えられていますが?

「KuToo」とSNSで問いかけたのは、グラビアアイドル兼女性会社員でした。「KooToo」という別のSNSもあります。それらの賛同者に、就職活動中の女子大生もいました。社則で強制するのを法律で止める要望も含まれ、署名が集まり厚生労働省に提出されたのを受けて、厚生労働大臣が記者会見しました。

――論点がいくつもあるみたいで、何が何だかわからないのですが?

男性と縁遠いからです。国民と美術の関係に似て、男性との関係は遠い。そもそもパンプスの語を男性は知らないか、十年に一度も口にしないでしょう。男性用はないし、靴店内で語を見かけても反応しない。しかもファッション関係のアンケート調査では、他人に面会して相手の靴に注目するのは主に女性で、男性の目は他人の靴に行かないのです。足元はどうでもよくて。

――ハイヒールとパンプスの違いは、ネット質問に昔からありますね?

ハイヒールはかかとの高さの違いで、パンプスは靴の種類です。ハイヒールでない靴はローヒールで、パンプスでない靴はサンダルが代表か。ネットもそんな回答です。

――最初の疑問ですが、女性たちには何が一番不都合ですか?

靴で身体障害が起きる被害です。長期の故障と後遺障も残るし。話は複雑で、ハイヒールであるかないかと、パンプスであるかないかは、別の話なのに複合します。まずハイヒールの定義は、ヒール部品と本体部品の接合境界の後端から、床面までの垂直高さです。日本の靴業界団体では7センチ以上をハイヒールと定義しています。

――そんな高いのを、企業は女子社員に強いているのですか?

違うのです。「うちの会社は3センチから7センチの黒いパンプスと決められていて」などと社則が寄せられました。つまりパンプスは強制ですが、ハイヒールは禁止です。ローヒールも禁止で、中間の俗に言うミッドヒールを強制しています。それでも被害が起きるから、ハイより低い6センチや5センチも俗にハイヒールと呼んで、境界はあいまい。

――7センチ以上の真のハイヒールを、逆に各企業は禁じているのですか?

完全な自由にすると、ファッションモデルみたいな15センチで歩き回る者が現れかねず、実際にいた報告がありました。高さ競争を防ぐ社則です。嫌なのに自ら選ぶのは、逆立ちみたいなものでしょう。自分からやりはしても他人の強制だと難儀です。ちなみに15センチで、背は15センチ高くはなりません。ヒール高さの計測は足首より後部だから、13センチ前後しか頭部は上がりません。靴の傾斜がきついデザインほど数字との差は大きく、数字どおり背が伸びるのはトップ部も同じ高さのぽっくり下駄だけ。

――そうすると、問題の焦点は何ですか?

パンプスの特異性です。まずパンプスという語は、アメリカのカタログショッピングで「コートシューズ」と呼ばれます。宮廷の靴です。最大の特徴は、足指のすぐ後部が大きくカットされ、普通は靴の全長の4割から6割ある甲のカバー部が、2割強ととても浅い。甲が指近くまで見えるほど浅いから、歩くと脱げそうになります。足を踏み出すと草履のように靴が置き去りになりかける欠点です。

――つっかけのスリッパみたいに、ペタンペタンとなるわけですか?

女性警官がよくそうなって、歩くと靴から足が出たり入ったりしやすい。そこで靴を足にしばりつけようと、甲ベルトや足首ストラップがついた製品も多い。ところがベルトやストラップは華美で、厳密にパンプスと定義されない。それでフォーマルでは、ベルトやストラップがないプレーンなパンプスが指定されます。これが女性には悲劇の始まり。

――歩くと脱げそうな靴が、仕事着に選ばれてしまった?

プレーンなパンプスでは、靴のつま先部とかかと部だけで足を拘束する仕組みが必要になります。それが「ころし」と呼ぶパンプスに必須の、はき口を細くした先詰まり設計です。足が前にずれないストッパーとして、指を左右と上下から締めつけます。靴を先細りに作るほかない。そこにヒール高さの差、つまり土踏まずの傾斜がからみます。

――どんどん、ややこしい話になりそうですね?

まずパンプスの定義は、ローは亜流でミッドからハイが本来です。そう高くない5センチヒール程度でも、トップ部のストームやプラットフォームと呼ぶ厚さをかせぐ部品で傾斜をゆるめない限り、土踏まずが滑り台みたいに前へ前へと滑り、足全体がずり落ちます。だからヒールが高いほどトップ部を細く作ります。フォーマルで本命のプレーンパンプスは、ゆったり幅広だと成り立たず、全てがきつく細い。靴ずれもすぐ起きる。最初から足に合う長さだと、しだいに足が前方にめり込んで後部にすき間ができてしまうほどで。

――そうした足指の押さえつけが、外反母趾の直接原因ですか?

足指の付け根が傾いて奇形になるこの炎症。パンプスゆえの脱げ防止と、ハイヒールゆえのずり落ち防止と、つま先立ちの指曲げという三つが主因で、外反母趾が百パーセント起きます。男性のビジネスシューズでさえ、足幅より狭いとか先細りのシェイプだと、足指が中央に寄り、親指の付け根の関節に骨折みたいな痛みが出ます。脱いだ直後は親指が互いに逆向きに傾いていて。

――痛くなるのは足の、主に指だったのですか?

ヒールの高さによって四カ所以上増えます。まずつま先立ちなので足の甲と土踏まずの骨格が体重でずれて、足の甲が痛くなります。また、本来後にかかる体重が前にも多めにかかり、指のすぐ後部の足裏が痛くなり硬化しやすい。さらにつんのめってひざが前に出る圧で、ひざ下のすね部分が痛くなる。ふくらはぎは収縮し、裸足になれば逆に痛くなります。もうひとつ、足裏のアーチが深くなる骨格変形も起き、土踏まずに大きいすき間ができたりします。

――ハイヒールの方が楽だという女性もいますけど?

長くはいていると足の骨格がずれて変形するから、適合していくのです。そうなれば靴なしで立つと、元に戻る圧で軟骨の周囲が痛くなります。はき慣れることで骨組が変形しているから、慣れても慣れなくてもどこかが痛いのです。たまにはくだけや、道の途中までスニーカーなどに替えたとしても、はいた短時間に急性の痛みが集中して足が死んでしまい、論理的に困った靴なのです。

――何をどうやっても、足が棒になって大変なことになりますね?

しかも腰をやられやすいと言われます。靴の前後の高低差が大きいほど、ひざが前に出て腰が後に下がり体軸が曲折する脊椎障害です。日本女性の姿勢が悪い一因になっているでしょう。昔ハリウッド女性が長くはき、突然死した事件がありました。コートシューズは宮廷用の見せファッションだけに、舞台コスチューム同然だから、仕事でウォーキングは無茶な転用です。歩き回らない王侯の貴婦人の靴だから、行動力も敏しょう性も削られます。一時的にポーズを取る特殊用途であり、結婚式の撮影用に向くでしょう。

――男性から見れば、ハイヒールはさっそうと軽快な印象もありますが?

ヒールが細く高いほど左右にいくらでもグラグラして、立つ時のよりどころがなく、内傾か外傾しやすく、片足立ちも曲芸でしょう。靴全体もヘナヘナゆがむし、細いヒール自体もしなるから、実はよくコケるし。竹馬に乗るより頼りなく、快適感も喜びもないでしょう。階段でヒールが外れて転げ落ちたりも。一度試して「あり得ない」と生涯はかない女性もいるほどで。「ハイヒールの同好会」でさえスポーツとみなし、準備運動やアフターの身体保守を重視していて。路上で暴走車を避けられず、はねられ死にやすい。災害時は脱ぐように言われますが、当然ガラスや釘を踏むはず。

――他にも欠点はありますか?

歩く音がコンコンと大きい。靴が鳴る音に加えて、床や舗装路が鳴る音です。床を棒の先で突く感じで。靴も床も傷みます。建築や土木では制約になり、伝統的な石敷きの仕上げに靴をとられる苦情が来て、平らな舗装に工事をやり直した施設もありました。水路にふたをするグレーチングという粗い金網で、すき間に落ちて皮革が破れるし。

――それほど歩くのに適さないファッションが、なぜ企業の制服なのですか?

突き詰めれば、女性の足の甲をなぜ出したいかです。それはパンプスという語を男性が全く口にしない理由と同じです。外見が女らしくなるから。見るからに女性的ルックスになるから。お姫様グッズには男性用はなく、女装アトラクションやコスプレ用がやっとある程度です。男性がはくとお笑い系になるほど、あるいは関わるのも気恥ずかしいほど、非男性的な外見になるわけです。

――女性に強いる理由も、その美容が目当てですか?

発端は昔何者かが女性のジェンダーを強調しようと、足の甲が露出した靴を望んだはず。フェミニンにして、ボーイッシュにしたくない動機でしょう。スカートに合わせた長い美脚かも知れないし、レースクイーンやマスコットガールの華やかさかも知れず。レディースのビジュアルを求めた。それでいて男性は靴に関心が低いのだから、誰の意思で継続中なのか不思議です。企業で男女同じ仕事が前提なら、労働力の損失を知って考え直すはず。

――何か代わりの靴はないのですか?

例えば女子高生の通学では、ローファーという種類が多いようです。これは普通は低くて、足の甲の皮革が十分あり、指部をころしで締めつけずゆったりでき、またソールの幅が男性の靴と似て、足の水平投影面積程度は確保されます。つまり足跡が大きい。運動靴との中間程度に歩き回れて、走れもします。足指が放射状になるデザインも可能でしょう。皆がそれでよければすぐ解決します。

――でもそれだと、女子高生ふうのルックスですよね?

おそらくそういう視点で、成人女性のフォーマルにパンプスを選んだ決定が昔あったのでしょう。男性のビジネスシューズはオックスフォードと呼ぶ種類で、これの女性版も多いのですが、やはりマニッシュに見えます。ただ時代のファッションは当代の人々が変えます。1960年代の女性の洋装はクラシックなプレーンパンプスでスティレット(ピン)ヒールが多く、1970年代になるとスクエアヒールが増えて、しかも男性の高い靴が流行りました。

――男性もハイヒールをはいた時代があるのですか?

フォークシンガーの南こうせつや武田鉄矢やRCサクセションは低い運動靴でした。一方、猫やガロはロンドンブーツで、チューリップは女性用ストラップサンダルを流用。そんな時代があったのです。昭和の通称パンタロンと呼ぶ、フレアパンツの流行に連動しました。プラットフォーム付きの超高いのが世界的ブームになり、内外ロックバンドの最後はたぶんアメリカのキッスでした。

――その後、女性の靴はどう変化しましたか?

バブル時代の1992年まで、女性の社会進出ブームは靴が低い時代で、バブルがはじけてから1997年頃に厚底ブームとなり、スーパーモデル用が広まった今につながります。アメリカで流行し日本に来ます。フォーマルな靴なら80年頃のブランドがシャルル・ジョルダンやココ・シャネルなど、今はクリスチャン・ルブタンやジミー・チュウか。フランスのブランドが多く、ハリウッド女性俳優向けでしょう。

――靴はそもそもヨーロッパ文化でしたね?

欧州製の靴は、伝統技術や木型のバリエーションにやはり差があるのではないかと。フランスやイタリア製靴の生命と言われるシャンクと呼ぶアーチ部分に内蔵した金属板ばねや、ヒールポイントの接地点の適正位置など、歳月をかけた製造ノウハウがあるはずです。もっとも輸入品を買っても、人種による足の形状差で合わない確率は高い。だから日本で研究すべきですが、不景気がじゃまします。

――日本の貧困化が、リクルート女子の足を直撃しているわけですか?

まともな靴は、本来は高級で高価です。輸入品5万円とか。バブル時代のカタログ通販で、日本製10センチが29800円など。ところが今は10センチのプレーンパンプスがアジア製で価格破壊し、通販で3980円だったり。5センチではもっと安い。つまり平成のデフレ不況で国内を覆った、安かろう悪かろう問題も隠れています。片方2千円は見まねのコピー商品だから、品質が良いわけもなく。

――昭和のバブル時代にはなかった、平成中期からの経済ダウンですね?

1980年代終盤のバブル時代に、インフレ好景気を受けて新職種が台頭しました。シューフィッターと呼ぶ、お客の足を細かく採寸して靴を選び出して提案するサービス店員です。お客は別料金を払いませんが、靴店が専門家を雇っていました。今後は付加価値のある大事な仕事になると話題でしたが、平成のデフレ不況で削減されました。その後の30年で日本は貧しくなり続け、途上国化が進行してきた転落が、靴の問題で無視できないのです。

――もっとお金を払えば、足に合うわけですか?

宮廷靴はローコストでは無理でしょう。日本の靴文化は貧相らしいのですが、3980円でなく29800円の経済国に戻すことが先決です。今の日本国民に、正装できる財力はないのです。バブル時代の昼は千円の串カツだったのに、平成不況では昼食を抜く若者が増えて。GDPが22年横ばいだから金回りが悪い。60万円の版画がどんどん売れた金満国ニッポンから30年近くたち、正装コストも切り詰める暮らしに落ちました。安かろう悪かろうが蔓延する貧困時代に、好景気時代と同じ社則では無理。強制しておいて、足が故障しても自己責任と一蹴するのは薄情。

――ところでこの運動は、最初の切り口が女性差別問題でしたが?

男尊女卑を糾弾するカードを一枚見つけたグローバリズム的な話にそれて、すぐ失速しました。背広やネクタイや皮靴を強いられる男性社員から、「男も同じさ」と反論されて終わり。しかし男性に歩行障害や後遺症は起きないから、同じわけはなく。宮廷靴のしかもハイとなれば富裕者の無駄づかいであり、国策で無駄をカットし続けて傾いた斜陽国ニッポンで、背伸びはもう無理です。権利とかリベラルの話以前に、デフレ日本のブラックな一コマでしょう。

――今もヒールのあるパンプスを押しつける黒幕は、いったい誰なのですか?

それを突きとめる議論を、一度やり直すべきでしょう。美容へのこだわりか、右にならえの惰性か。一般に女性の社会的位置づけは、保守派の上級国民の願望が反映します。最近軍事パレードの女性兵士の行進を調べると、国単位で靴はまちまちでした。ただ、個人単位でストラップありやなしなど幅がある軍も意外にあります。靴は個人の体質に強く左右されるから、個性化の発揮しどころでしょう。社則をゆるめて、ビジネスチャンスもつくれそうです。黒幕捜しも含めて、話題が広がってよい分野です。

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