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電子美術館のQ&A

124 MMT現代貨幣理論も現代芸術理論も簡単さ

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2019/5/1

――先に聞きたいのですが、究極の答は何ですか?

理解が難しいのは、知識と先入観のせいでしょう。先行する知識が理解をじゃますると、中学一年の時に気づきました。理科の第一分野、化学系、ばけがくの先生が、私たち生徒に教えるのに苦心しました。途中で言われたのは、「これまで覚えたことを、ここでは忘れてください」。

――MMTという新しい経済理論が、平成最後の2018年に急に話題になり、大変なことになっていますが?

MMTはお金の説明です。『モダーン・マネタリー・セオリー』を『現代貨幣理論』と訳せます。マネタリーは貨幣なはずが、『現代金融理論』の訳もあります。金融はファイナンスだから受け取り方がずれます。MMTは思想や哲学ではないから、セリフでないト書きの理論です。お金の性質をたんたんと述べたウンチク集といえます。

――MMT、現代貨幣理論は、どういう理論ですか?

実はとてもシンプルです。(1)自国通貨建ての政府負債は、いくら増えても破綻しない。(2)現実に増やせる国債の金額は、商品需要と供給の兼ね合いによるインフレ率で決まる。(3)政府の赤字負債は、民間の黒字資産となる。

――三つのそれぞれは、どういう意味なのですか?

国債は日本国政府が発行し、市中銀行と一部投資家が買います。得た日銀当座預金を担保に、政府は振替操作で民間事業に支払い、民間の所得になります。(1)は外貨でない自国通貨の国債を発行し続けても、行き詰まりが原理的に絶対に起きない意味です。なぜなら自国通貨は中央政府自身が発行するから、足りなければ足りるまで増刷して済むからです。その時、政府の帳簿では負債のかたちで記録します。赤字計上です。

――単にお金をポンと発行して、赤字扱いで自由に使えば済むわけですか?

現にやっており、日本政府の赤字は明治時代から増え続けて1100兆円です。大部分は国債発行残高であり、経済大国ほど大きいだけの話です。国債が自国通貨建てで、変動為替相場の安全国は日本、アメリカ、カナダ、イギリス、スイス、オーストラリア、ニュージーランド、滑り込んで中国です。統一通貨ユーロのEUは失格で、EUの一員ギリシャは借りたユーロがデフォルト、返済不能となり、財政破綻しました。アルゼンチンはドル借金、ロシアは固定為替で返せず財政破綻した過去があります。日本円は最強です。

――(2)の、上限がインフレ率で決まるとは、どういう意味ですか?

原理は無限に増やせるとしても、実社会でどこまで増やせるかがインフレ目標です。お金は政府の判断で発行しますが、多めに出回ればインフレ基調になります。インフレーションは物価が上がり、お金の価値が下がる現象です。お金の流通が多すぎると爆買いが起き、お金の価値が下がりすぎて超インフレになります。理想は適度なインフレです。適度と超の境界が、お金を増やせる上限です。

――インフレーションの実例は、何かありますか?

例えば日本で1960年代に、『チロルチョコレート』というお菓子は、一個10円だったのが20円、30円と上がりました。この値上げもインフレーションでした。10円玉の値打ちが、半分や3分の1に徐々に下がった意味になります。お菓子のインフレ率は平均で年20パーセントほどでした。

――インフレになると、大変なことになるのですね?

逆なのです。インフレは好景気で、給与や報酬やボーナスなど所得が物価以上に上がります。人件費も物価です。チロルチョコの時代は、国民全員が裕福になった高度成長でした。どの国も「適度な」インフレで経済成長させたいわけで、インフレ下では美術も伸びて傑作が増えます。国民全員が色々チャレンジする金銭余裕ができるから。

――でも国債を無限に増やすなんて、やれば大変なことになると大騒ぎでしたね?

誰も無限に出さないから無駄な議論です。例えば定食屋でごはんのおかわりが無料で自由でも、内蔵が破裂するまで食べる人はいません。死ぬまで食べる義務はないし、腹十分や十一分にとどめます。望ましいインフレは腹十一分で、十二分だと多い。チロルチョコが千円で、時給3万円では支障がある。そんな普通の話です。理想のインフレ率は2から4パーセントで、これが正しい財政規律です。

――インフレになるかどうかは、先が読めませんね?

理解不足だと読めません。どんな分野でも原理を知らないと何もできません。芸術がわからないのと、そこは同じこと。

――難しいから理解できないのではなく、理解できないから難しいわけですか?

芸術より数倍難しい経済も、原理は簡単です。もしインフレ率が20パーなどに上がれば、増税して冷や水をかければ、国民は買い控えるから消費が鎮火します。再びインフレ率は4パーや2パーに落ち、理想へ戻せます。これを自動化する仕組みが、所得税の累進課税です。所得が下がれば税率までが下がる手加減を含みます。デフレ不況に追い込まれてヤケクソになり、歩行者天国テロや国家てんぷく、国を売り換金したり、クーデターや共産主義革命へ暴走する者を阻止できるのが累進課税です。

――もし増税で消費が冷えすぎて、勢い余ってインフレ率が下がりすぎたら何が起きますか?

それが平成時代の日本でした。増税でインフレ率がゼロを下回り、ついにマイナスに割り込みました。マイナスのインフレ状態がデフレです。インフレは好景気の好況で、デフレは不景気の不況です。平成日本では人類史上最長のデフレ不況を記録中です。始点となったアメリカ金融がはじけたのは1988年、昭和末期のバブル消費ブームがはじけたのは1992年(平成4年)の後でした。

――日本は今も、バブル経済が崩壊した続きでしたね?

バブルの5年後の1997年が「日本は終わった」説の起点に当たり、不景気の中で消費税率を上げる逆走した政策で、MMTの法則どおりデフレ国となりました。以降は22年間もデフレ不況を続け、有力大手企業が次々と倒産して外国へ身売りし、ブランドと技術をインフレ国に買い叩かれました。斜陽は日本の国際発言力低下にも表れ、自滅を知った周辺国から領土を攻められました。令和時代の初日2019年5月1日、今日も引き続きデフレ不況での真っ暗なスタートで、政策も相変わらず逆走を強めるところです。

――インフレとデフレは、一長一短ではないのですか?

インフレは金余りで、デフレは貧困化です。デフレは国難なのでブラック企業やら、無差別テロや戦争願望も生じます。あまり知られない事実ですが、第二次世界大戦はデフレが発端の国際集団パニックでした。1929年の大恐慌と呼ぶデフレ不況で各国が傾き、ドイツと日本が他国へ侵攻して、連合国が食い止めました。日本の場合、高橋是清がMMT方式で財政出動を行いましたが、直前までデフレ下の緊縮財政というミスが尾を引き軟着陸できず、2.26事件。経済安定セオリー不足もあり覇権国へ向かいました。国民が飢えて気が立ち、狂い出した実例です。

――平成日本のデフレ不況だけが、今も異常に長く続いているのはなぜですか?

普通の国でポツンと一人日本だけが経済成長せず、デフレ不況の人類記録を更新し続けている理由は簡単で、本来の解決策とは逆を続けているからです。凍えた人を水風呂に入れたり、やせた人に断食させる政策で、何もしないより悪化しました。逆走の正体は緊縮財政と消費税増税です。逆走する動機は諸説あります。国会議員馬鹿説から国際金融コンツェルン陰謀説まで。

――MMTの(3)政府の赤字負債は、国民の黒字資産となるとは、どういう意味ですか?

政府赤字が大きいほど、国が富む原理です。平成時代の耳タコに、「日本の借金は700兆円」がありました。800兆、900兆、1000兆と増えて、平成時代の最後には1100兆円でした。この借金はもう知られるように虚偽で、厳密には政府負債です。帳簿上の。「日本は借金で財政破綻する」は平成のフェイクで、国賊的な悪意表現と言われました。誰にも返さないお金だからです。

――日本と日本政府は、別ものですか?

当然で、国民が日本国を持ち、経済成長のかじ取りを託した特殊法人が政府です。日本の借金とは、本来はイギリスやアメリカやドイツ、フランス、スイス、オランダなど外国からお金を借りる意味です。ところが1100兆円は、打ち出の小づちで出した、その実績の数字にすぎません。

――日本によそからの借金なんて、本当は存在しなかったのですか?

借金といえば外から借りますが、1100兆円は通貨発行権で出した証券を日本銀行で現金化するのです。内輪なので永久に返済しません。最近は貸借対照表、バランスシートに計上されます。これは商業高校の簿記科目で習う複式簿記で、青色申告で提出する作表です。表の右側に記す貸方と呼ぶ出費名目残高のうち、国債発行や一時借入金などが1100兆円です。

――その借金?、負債?、赤字?を子孫へ背負わせる恐怖で、国民は震え上がりましたが?

全く無意味です。右側の政府赤字はお金の発行量であり、国民の黒字が増えた記録です。赤字を1200兆、1300兆、いつか一京円以上へ伸ばすことが子孫への真心です。税収60兆円で政府支出90兆なら、30兆が経済成長なのです。GDPが増え、国民は車や家が買え、結婚と子どもが増え、科学技術特許も増えます。洪水や土砂崩れは減り、児童の交通事故も減る。企業の海外身売りも、リストラや貧困自殺も減る。赤字が増えれば経済成長、減れば経済衰退という簡単な道理です。日本も他国も、政府赤字の伸びが経済成長を意味するのです。

――でも今の9倍の一京円に赤字を増やせば、大変なことになりませんか?

その懸念は「熱中症で脱水症状の人に水を飲ませろ」に対して、「水中毒で死ぬからやめろ」の極論です。4リットルを一気飲みする話でなく、コップ一杯の話です。ただし真夏に4日で4リットルならある話で、年間で風呂おけ一杯分は飲むでしょう。その累計が一京円であり、風呂一杯は飲めないからと、水分補給を断つのは不合理です。熱中症で死亡か水中毒で死亡か、両極端の二択を私は考えません。致死量を一度に飲まず、適量を飲み続けることを、私なら考えます。日本語で「程度の問題」と言います。

――程度はどうであれ赤字は悪だから、ゼロに減らさないと大変なことになりませんか?

政府の赤字は善です。悪でなく善。返済してゼロにすれば、お金が消えて皆が死にます。赤字分は国民のお金となり、堤防や耐震ビルに化けます。これは通貨発行額を赤字計上する帳簿手続きであり、損金ではなく国民の資産に変化して暮らしを支えます。経済大国は赤字が巨額で、アメリカは日本の倍の2300兆円です。

――その赤字を増やさずに減らすと、何か大変なことが起きるのですか?

東日本大震災で起きました。1990年代に、福島第1原発の防潮堤をどーんと高くする計画がありました。ところが政府赤字を削減するために工事を省いたのです。事業仕分けというあれ。福島原発は2011年の津波で爆発し、2020東京は放射能オリンピックだと海外から言われ、後の祭です。赤字を減らしたがる勘違いが招いた悪夢です。

――その勘違いを、日本国民がやめないのはなぜですか?

赤字の語です。赤字はだめだとの字面のイメージでしょう。赤字が大きいほど国が富む道理を、いくら言っても聞かないガンコです。要は経済界が国民黒字と呼ばず、政府赤字と呼んだ失策です。オレン字などと呼べばよかった。美術にも似た現象があり、明治時代にファインアートを美術と訳して、範囲が狭まりました。美術は美の術だと活字が誤導したせいで、バラの花は美だが松や竹の花は美と違うように感じたのです。政府負債を返して赤字をなくす異常行動も、語感がまねいた勘違いです。言葉ひとつで思考が暴走する大脳の怖いはたらきです。業界の暗雲です。

――MMT、現代貨幣理論の理解のキモはどこですか?

信用創造という概念です。英語だとマネー・クリエイション。現代人は、お金を物扱いする中世の思考を出ていません。現代のお金は情報であり、ソフトです。本意は借用証です。誰かに何円か借りた記録用紙がお金となり使用権となります。お金の発行は無から有を生むから、「財源はどこ」「金庫は空」は勘違いです。通貨の発行は政治家の仕事だから、お金不足に政治家が泣いて節約するのは狂言であり、職務放棄や国家反逆に相当します。

――信用創造とは、誰が何をクリエイトするのですか?

銀行が貨幣をクリエイトします。銀行はネットに任務を書いています。銀行融資は通帳に数字を印刷するだけです。だから貸しても「マネー・レンタル」と呼ばない。世界で長く続けているのに、知らない人が多くて。銀行員の半分は知っていても、経済学者やノーベル経済学賞の人は軒並み知らなかったようで。芸術への理解がお金への理解よりましな根拠は、銀行の信用創造が理解されない点です。「国債とは国民の銀行預金を拝借して出すもの」という誤解です。立派な経済学者もしっかり誤解して公言するからひどい。

――他人の銀行預金を貸し出すのが融資だと、よく聞きますが、それは正しいのですか?

誤解です。銀行業務は、借りたお金を他人に貸しはしない。大事なことで二度言いますが、銀行は預金を又貸ししない。「資産家Aから預かったお金を、社長Bに貸せば合計が倍に増える」説明は間違いです。現代の信用創造は、銀行がお金を生みます。創造です。画家が絵を借りてこないで、自前で創造するのと同じ。銀行が貨幣の総量を新規に増やします。画家が絵の合計数を増やすのと同じ。スウェーデン、イギリス、メキシコなどは生む金額が無限で、日本は上限があります。各銀行が日銀準備預金の99倍まで創造できます。原資や担保なしで。(編集注:現在77倍の2京3千兆円が上限で、GDPの42倍相当で事実上無限の造幣)。

――でも、お金を勝手に作って増やすのが自由だと、大変なことになりませんか?

だから鮮魚店や靴下屋やスマホメーカーには、その権限がありません。銀行だけ。銀行は単に金貸しではなく、お金を新造する神のごとき権限を持ちます。新造は誰かがお金を借りた瞬間に、無から有が生まれます。昔から続くこの仕事の説明がMMTなのに、バッシングが続いています。世界中の銀行で今日もやっている業務なのに「そんな夢話はあり得ない」と怒る専門家が続出しました。各国で毎日やっている作業に対して、取り乱してカッカして。それでMMTは現代の地動説と言われます。経済界では、地球を中心に太陽が回る解釈が今も主流だから、驚かされます。

――古い知識が固定化すると、目の前の現実さえ理解不能になるのですね?

それは芸術でもいえます。日本では芸術は写実デッサンの腕だとされ、手の器用な細かい作業が芸術だという前提が広まっています。ゴッホのようなわかりやすい画家が日本での理解が高いハードルなのは、この前提がゴッホ絵画とは正反対だからです。現実のゴッホ絵画はデッサンが狂って、芸が荒く雑です。皆が知る芸術の本質とあべこべなので、ほめ言葉が引っ込み理解が行き止まります。

――だとすればゴッホ愛好家も、実は理解できていなかったりするのですか?

「評価してきた根拠はそこかよ」というケースはあるでしょう。芸術は写実だとの通説に沿って、ゴッホ絵画を形態模写と受け取るのが日本の鑑賞です。こんな感じでお金の意味についても、宝物の代用品だという感覚でやっているのです。お金を大事に守ろう守ろうとして、使わないように心がけてしまったわけです。結果は2019年現在、22年で国が傾き、中小企業も大企業も次々つぶれ海外に買収され国民も若くして亡くなり。若者も日本を捨て始めて。

――現代芸術理論では、ゴッホはどう解釈できますか?

私の現代芸術理論では「芸術の特徴は表現の裂け目である」と定義しています。絵に明るい希望と深い絶望が同居して、明るいのに暗い絵でもあり、複雑な感慨を誘います。大赤字が大黒字と表裏一体の、まるでバランスシートの左右を同時に見たような絵画がゴッホです。赤字だけでも黒字だけでも、一面しか見ていません。「ゴッホは割り切れない変な絵だね」と感じるなら、それは美術表現のMAT、モダーン・アート・セオリーどおりです。

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