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電子美術館のQ&A

100 AT車の暴走、ARTの暴走

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2013/1/16

――AT車の暴走事故が後を絶ちませんね?

自動車の変速機トランスミッションには、主にオートマチックとマニュアルがあります。アメリカでは昔からオートのATが多く、日本ではほとんどがマニュアルのMTでした。その日本も1980年代に逆転し、今やAT率が世界中でダントツに高い片寄り方となっています。ATの運転技術だけ持つ人や、ATだけ許可される免許が多数派の特異な国です。そのAT車だけの特異な事故が、不慮の暴走です。

――なぜAT車だけに暴走が起きるのですか?

MT車で同様の暴走事故が報告されないから、むろん原因はATとMTの違いです。ところが私は、事故の分析データが日本に乏しいと知りました。現状把握が十分でなく、ネットでもアバウトな論争があります。「あんな事故は僕には理解できない」と首をかしげてみせたり、「僕だったらあり得ない」という自慢と豪語が次々と投げられています。今も、事故原因が全く不明のまま放置されているせいです。間違った解説だけが、ネットに山のようにあります。

――AT車で何が起きているのですか?

事故は高齢ドライバーに多い特徴があります。これが引っかけです。年齢に着目すると論点がずれます。

――年齢以外に、論点はどこですか?

駐車です。事故は国道を行く車には起きません。高速道路でも起きないし、狭い路地でもめったになし。コンビニやファミリーレストランでの車庫入れで多発しています。駐車場の5階から、宙を舞って地面に落ちた車もありました。

――ということは?

国道と駐車場の違いがヒントです。それはスピード。事故は低速で起きます。ノロノロ運転でAT車は何かが違う、その違いが犯人です。

――確か、ペダルの踏み間違いでしたね?

間違ってアクセルペダル(スロットルペダル)を踏んで暴走しています。ペダルの数はMTは3つ。対してATは2つで、右足だけのシンプル操作です。遊園地のゴーカートのように、アクセルを踏むと進んで、ブレーキを踏むと止まります。訓練なしの小学生でも直ちに走れるほど操作が簡単なATで、事故が多発しているという。

――2つのペダルが近い位置にあるから、間違って踏んでしまったとか?

その説明は非常に多く見ますが、関係ありません。なぜなら近接するペダルに足を乗せ間違うなら、国道の信号でも暴走が起きるはず。しかし特に目立たず、統計と合わない。

――ペダルを横並びに配置しないで、高さも変えてずらす改善案はどうですか?

全く関係ないでしょう。話をノロノロ運転に戻します。AT車だけの特徴に、クリープ現象があります。

――止まっている車が、勝手にノロノロ進むあれですね?

ATはノークラッチと言われましたが、厳密にはノークラッチベダルです。クラッチ板はATギアボックスにたくさん入っています。ないのはクラッチベダル。そしてクラッチが切れても流体の粘性がつないで動力は完全には遮断されず、エンジンのアイドリング中でもじりじりと車が動きます。なので、停車中にブレーキを踏んで押さえ込む操作がAT車には必要です。MT車には必要なくて。

――それが、事故に何か関係するのですか?

駐車場で車庫入れする時、クリープ走行の低速よりも、さらに遅いスピードを要求されます。クリープの動きにまかせたら速すぎて、勢い余って車止めを越えたり周囲にぶつかるからです。それを防ぐには、AT車にクリープ走行させて、ブレーキで軽くおさえ込みます。

――誰でもそうやっていますよね?

この操作は、国道を快走する時とは異なります。国道ではアクセルペダルに足を乗せて進みます。ところが、駐車場ではブレーキペダルに足を乗せて進みます。同じ進むにしても、足を乗せているペダルが異なります。どちらも今まさに進んでいる最中なのに、踏んでいるペダルが違うわけで。本来なら止まる時に踏むはずのブレーキペダルを、車庫入れでは進む時に踏んでいるのです。ブレーキを踏み続けながら、進行し続ける。

――身の構えが、駐車する時に限って正反対なのですか?

今起きていることを否定しようと、今と逆のことをした・・・。今踏んでいるペダルと逆のペダルを踏もうと、条件反射が起きたのです。そして暴走。ドライバーは車を走らせるために、あるペダルを踏んでいたのです。そして止めるために、もうひとつのペダルに足を移して踏んだ、これが事故の原因です。

――足を移したもうひとつのペダルこそが、加速用のアクセルだったわけですか?

反対の反対は賛成だったという。事故原因は、左のブレーキペダルを踏もうとして、うっかり右のアクセルペダルに足がかかった失敗ではありません。ペダル配置のまずさや、体からの距離や軸ずれも、左右の足の分担も無関係です。今とは反対の現象を起こそうとして、今踏んでいるのとは反対のペダルを、堂々と自信満々にしっかりと強く踏んだ。これが事故が発生する直前の出来事です。つまり踏み間違いという言い方は、当人の体験と合いません。誰も間違った覚えはないし、一瞬足が迷いもせず。確実に精度よく、美しくスムーズに操作しています。

――間違いに全く気づかなかったという、ドライバーの証言がよくありましたね?

「ブレーキを踏めば踏むほど加速したから、欠陥車なのは明白」と交通刑務所から訴えたり、主張サイトを作ったケースもありました。しかしブレーキペダルには、加速させるメカにからむケーブルなどは存在せず、全くの錯覚なのです。

――その錯覚を起こしやすいのが、高齢者ですか?

案の定、この事故が一番多いのが若者で、その次が高齢者に集中しているのが統計です。踏み間違いが多い年齢層に免許を与えない案だと、試験場で若者全員を不合格とする奇妙な解決策に陥るでしょう。アメリカでは、昔から一定の暴走事故が続いていて、先年の日本メーカーT社叩きも調べるとそれでした。

――結局、事故原因はクリープ現象だったのですか?

ドライバーが何もしない時、車は静止しないといけません。MT車はそうです。ところがAT車は何もしないと車が進む仕様だから、裏返しのねじくれた操作が必要になります。だから錯覚が起きます。ペダルAで進み、ペダルBで止まるなら、錯覚は起きません。しかしペダルBで進み、ペダルBで止まるのは、意地悪な引っかけです。止める時に無意識に足がAへ向かう確率が上がります。「自分ならあり得ないミスだ」「踏み間違う者は死刑」と誇る優良ドライバーの中から、店に突っ込む者が出ているのが日米の現実です。事故ドライバーが車の欠陥だと真剣に訴えたのは、豪語の続きだったのかも。

――それはもう車の欠陥の一種に違いないのだから、設計変更が必要ではありませんか?

パソコンのキーボード配列と同じです。初期デザインが人間工学的に不合理な、ねじくれた並び順であっても、普及したら正せなくなります。間違いを踏襲したねじくれた新製品を、以後も出し続けることになる宿命です。

――クリープ現象のようなものは、世の中に多い気がしますが?

人が操作を全部やめた時、止まっていないで、こっそり動き続ける現象がそれです。何もしない自分が流れに乗せられ動かされているなどは、社会にごく普通にみられます。

――そうしたクリープに似た現象は、きっと美術にもありそうですね?

白紙の境地で制作しても、実は決まった方角へ向かっているという。自由に好き勝手に作った美術も、何かの推進力を受けて乗せられている例が、むしろ一般的でしょう。

――ブレーキペダルを踏んで止めないと、美術もノロノロと動いてしまうわけですか?

一切の邪念を取り払ったら、ある決まった作品づくりへ無意識に向かってしまうような感じでしょう。ブレーキペダルに足を乗せ、クリープ走行しているようなアート作品がたくさんあります。

――その時、制作のペダルを踏み間違えたら、何が起きるのですか?

流れを加速させ暴走します。写真リアリズムや古タイヤ積み上げもそうかも。この場合のクリープ現象は群集心理の順風と同義で、さからうのはしんどいし、外れると浮いて恥ずかしく感じたりもするでしょう。そこで流れの空気にうってつけな、しっくりと良いあんばいの快適作品を求めることになり、クリープ現象に乗って行くという。

――それだったら、どうやれば創造ができるのですか?

簡単な話で、ハンドルを回して向きを変えます。

――簡単すぎる話ですね?

自由はいつだって、360度全方位に開かれています。でもきれいに舗装されたアスファルト道路をつたって行くように、大方の美術は作られているのです。

――わざと暴走させて、ショックで創造を生むことはできないのですか?

まあ、冷静に道なき道を行くのが創造であって、駐車場で暴走するがごときアートは、芸術創造と向きが違うと思いますが。

――アートでは、若者と高齢者で暴走のタイプが違いませんか?

暴走アートと聞けば、若者の派手な怪作を批判する話になりがちです。勝手なことを勝手にやるなと。一方で、長年まじめだったドライバーが錯覚を全開させたような暴走アート作品も、世の中に多いといえます。

――具体的にどういう作品が、錯覚で生じた暴走アートですか?

おそらく一番多いのは、職人芸の細かさです。芸術性を指先の器用さや、長時間作業の我慢強さで計量していて。時間をかけてていねいに作り込んだ精密機械的な工芸品をもって、芸術と称する錯覚です。芸術家肌とは、微細な加工の匠を指していて。写真は芸術に思えないという主張も、ボタン押しは手仕事に遠く感じる錯覚もあろうかと。念のため加えると、制作にかけた時間と手間を高級とみなす傾向は、世界中にみられます。日本だめ論よりも大きい話で、意外に世界的にだめ。芸術家の心意気が、職人気質に向かって常にクリープ現象を起こしているのです。

――それにしても少しの錯覚が大変な結果になって、本当に怖い話ですよね?

AT車の暴走は、社会丸ごとの暴走と似ています。今起きている社会問題があって、今やっている行動が目について。目につく行動をひっくり返すには、今と反対のペダルを強く踏めば、問題が解決して好転する気がします。ところが、錯覚や気分的な反射で間違ったペダルを踏みつけて、社会が迷走して犠牲者が出る場合があります。

――犠牲者の出ない美術とは違い、犠牲者も出るAT車に若者や高齢者はどう乗るべきですか?

AT車の暴走を手っ取り早く減らすには、駐車場で手を使うことです。両足を床に置いて、クリープにまかせてゆっくり走りながら、ハンドブレーキの加減で速度を調節します。

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